認知症で預貯金を管理できなくなった本人に代わり、家族がお金を引き出すための手続きを銀行界が「見解」としてまとめた。高齢化社会に伴い認知症患者の急増が見込まれており、新たな対応が求められていた。親を介護する家族らに融通が利く仕組みとして、速やかな浸透を期待したい。

 認知症を患う人は増えており、厚生労働省によると2012年の462万人が、25年には高齢者の5人に1人の700万人前後に上ると見込まれている。

 問題は、一緒に住んでいる家族といえども認知症になった親などの口座から簡単にお金を引き出せない点だ。金融機関は本人の意思確認を原則としており、医療費や施設入居費に使いたくても引き出せない場合が多い。

 認知症になった人の財産管理の仕組みには成年後見制度があり、選任された後見人は本人に代わって預金の引き出しや契約行為が可能になる。だがケースによっては家族の資産を弁護士など第三者へ委ねることになる点や後見人への報酬が必要になる点への抵抗感から、制度の利用は進んでいないのが実情だ。

 このため全国銀行協会(全銀協)は、後見人としての「代理権」を持たない親族でも預金が引き出せるようにする手続きをまとめ、公表した。

 見解は、金融機関として「成年後見制度の利用を求めることが基本」としつつ、代理権のない親族への対応を例示。まず本人面談や診断書により「認知判断能力の喪失」を確認した上で、預金引き出しが医療費の支払いなど「本人の利益に適合することが明らか」な場合、親族の依頼に応じるとした。

 親族の要望や利便性に配慮する一方で、お金を預かる金融機関の責任と悪用の防止を担保するポイントが示されており評価したい。見解は代理権のない親族の預金引き出しは「極めて限定的な対応」であり、後見人が選ばれた後は応じないとも強調した。

 金融庁は昨夏の報告書で、認知症当事者の親族による預金引き出しについて「柔軟な対応を行っていくことが顧客の利便性の観点からは望ましい」と指摘し、金融界に指針策定を求めていた。見解はその要請に応えた内容と言えるだろう。

 新たな仕組みを運用する上で鍵を握るのは、窓口などの実務を担う従事者の理解であろう。金融機関は見解の周知徹底に努めてもらいたい。

 発症者の増加に伴い30年度には、認知症顧客の保有する金融資産が家計金融資産全体の1割に当たる215兆円へ達するとの試算もある。認知症当事者の財産を眠らせることなく安全・適切に利用できるようにしていくことは、親族のみならず、日本社会全体のために重要である。

 その点で気掛かりなのが成年後見制度の現状だ。利用は18年末で22万件弱と患者の多さに比べると限定的にとどまる。ただ、申し立て動機の最多は「預貯金等の管理・解約」であり潜在的な需要は大きい。親族などがメリットを感じられる制度へ改善を探るべきだろう。

 見解はまた、顧客の認知能力低下を見過ごせば財産管理に支障を来しかねないとして、銀行が地方自治体や社会福祉関係機関に相談するなどの「連携強化」を促した。

 金融機関による高齢顧客支援の新たな役割として広がりを望みたい。(共同通信・高橋潤)

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