通勤の途中、路上に小枝が散らばっていた。わきの電柱を見上げると、カチガラスのつがいが巣作りに励んでいる。身の丈ほどもある長い枝をくわえた一羽が、あともうちょっとのところで落とす。すると、もう一羽がこんどは短い枝を運んでいく。電力会社の人には悪いが、つい頑張れと声をかけたくなる◆志賀直哉の随筆に、こんな話がある。土砂降りの中、家族でよそへ訪ねる用事があった。濡れてしまうので、妻はくたびれた足袋で出かけ、途中の駅できれいな足袋に履き替えた◆それから脱いだ方を丸め、何気なく夫のコートのポケットに押し込んで、すたすたと先へ歩いていったという。〈ふと夫婦というものを見たような気がした〉と志賀は一文を結んでいる。寄りかかったり寄りかかられたり。夫婦の歩みは奥深いものである◆きょうは天皇誕生日。即位後1年もたたずに新型コロナが広がり、両陛下が国民と直接ふれあう姿を見ることはかなわなくなった。「密」を避けながら苦難にある人びとにどう寄り添っていくか。「令和の皇室像」もまた、お二人で支え合いながら、巣組みの最中なのだろう◆よそのお宅に思いをはせつつ、わが暮らしを顧みれば、脱いだものは丸めて任せっぱなし。頑張れよと言われているのはこっちか。〈鳥の巣を見上ぐ啓示を仰ぐかに〉上田日差子。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加