行政の公正さへの不信感を再び招き、国会審議をないがしろにする姿勢も改めて浮き彫りにした。菅義偉首相の進退が問われるほどの重大な事態だ。

 放送行政を所管する総務省幹部4人が、放送事業会社「東北新社」に勤める首相の長男らの接待を受けていた問題は、国会での「虚偽答弁」疑惑に発展した。幹部のうち2人が事実上更迭されたが、責めを負うのは官僚だけなのか。会食接待に応じた背景に首相への「忖度(そんたく)」があったことは否定できない。首相は自身を含め責任の真の所在を明確にすべきだ。

 総務省によると、幹部4人が長男側と会食したのは、2016年から延べ12回に上り、タクシーチケットや手土産を受け取っていたこともあった。

 週刊誌の報道を受け、内部調査に着手したが、長男らの接待目的や総務省幹部が誘いに乗った理由、会食費用の負担割合などは曖昧なままだ。

 国家公務員倫理規程は、省庁の許認可を受ける事業者を「利害関係者」と定め、接待を受けたり、金品を受け取ったりする行為を禁止している。

 長男は、総務省から衛星放送の認可を受けている東北新社の子会社役員も兼ねる。会食が集中した昨年12月は衛星放送認可の更新時期であり、放送行政への影響について疑念を呼ぶのは当然だ。総務省は、国会審議がストップしてからようやく長男が利害関係者にあたる「疑義は否定できない」との認識を示した。幹部だけでなく、菅首相への追及を回避したいとの思惑を感じてしまう。

 首相も長男は「別人格」と強調した上で、「誰であっても、国民から疑念を抱かれる行動は控えるべきだ」と一般論での答弁に終始した。

 だが、総務相時代には長男を秘書官に起用している。総務省側に「特別扱い」する意識が働きかねないことを自覚するとともに、行政をゆがめる忖度がはびこらないよう言動で示す必要がある。人事権をちらつかせて官僚を従わせていては同様の問題が起きかねない。

 接待を受けた総務省の秋本芳徳情報流通行政局長は、許認可権を持つ衛星放送の話題が出たかどうかについて「記憶にない」とかわし続けた。接待の目的という問題の核心につながるためではないか。週刊誌が会食時のやりとりとする音声を公開しても認めなかったが、同省上層部が隠しきれないと判断したのか、「今となっては発言があったのだろうと受け止めている」と答弁を変えた。

 不祥事が起きるたびに聞かされる「記憶にない」発言は、うそが発覚した場合に言い逃れするための常套句(じょうとうく)であると国民は見抜いている。今回も「虚偽答弁」との批判は避けられない。国会軽視と指弾されよう。

 安倍晋三前首相と親しい者を優遇したと指摘された森友、加計両学園や桜を見る会を巡る問題への反省もうかがえない。

 武田良太総務相は秋本氏と、同じく接待を受けた湯本博信官房審議官を官房付に異動させると発表した。他の2人を含め、懲戒処分を視野に入れているというが、真相解明前に国会質疑から遠ざけ、幕引きを図るとしたら容認できない。

 菅首相は総務省の調査にこそ忖度がないよう指示するとともに、自らの責任を率直に認める必要がある。そうでなければ行政への信頼を取り戻すのは難しい。(共同通信・鈴木博之)

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