東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長に橋本聖子氏が就任した。五輪相を辞めて移った形だ。

 森喜朗前会長が女性蔑視発言で国内外の批判を受けて辞任を表明し、近しい関係の川淵三郎日本サッカー協会元会長に後任への就任を独断で要請して、いったんは受諾を取り付けながら白紙撤回となった一連の動きは、市民に憤りと失望を広げた。

 荒波の中、出航する橋本氏が担う責任は重い。

 まず組織委に対する不信をぬぐい去らなければならない。それには、新型コロナウイルス感染対策で調整が必要な広範囲にわたる開催準備について、適切なタイミングで的確な判断を下すことはもちろん、市民に歓迎されるメッセージをさまざまな活動を通じて出し続けることが大切だ。

 ワクチン接種が各国で始まり、コロナ禍の暗雲を抜け出せる希望がほのかに見え始めた今だからこそ、明るい話題を提供してほしい。

 組織委は森氏の後任候補を絞り込むに当たり、元五輪選手の理事ら男女同数の計8人で構成する候補者検討委員会を設けた。森氏が川淵氏を一本釣りしようとした密室人事に対する批判を受け「透明性の確保」を誓ったにもかかわらず、その構成メンバーなどについては非公開とした。

 公益財団法人のガバナンスの観点からも、市民の期待に応える姿勢を示す上でも、少なくともその氏名は明らかにすべきだった。

 新会長の候補としては「五輪とパラリンピック、スポーツに深い造詣がある」「国際的な活動の経験がある」「組織運営能力が備わっている」など5項目の基準を設け、検討を進めると決めた。

 それ自体は良かったが、果たしてどこまで自由で活発な議論が行われたかは分からない。

 政権幹部はかなり早い時点で、森氏から世代交代を印象づけられる女性である点は大きなメリットとして、橋本氏への期待を表明していた。

 政府が五輪はまさに国家行事だとして、歩調を合わせやすい身内から、新会長を出したがっていたのは明らかだ。検討委の審議に、政府の意向が反映されたということはないのか。

 森氏の女性蔑視発言から密室人事まで、市民の反発があそこまで大きく広がったのは、男女平等の精神に対する認識不足への批判だけでなく、その政治的な手法について不適切だと判断したからだ。

 自民党でかつての森派に所属する橋本氏に対し、厳しい視線を向ける市民もいるだろう。

 橋本氏は冬季五輪の日本選手団の団長を務めたときに酒に酔い、フィギュアスケートの男子選手にキスをしたことがある。野党は早くも「ハラスメントだ」と問題視する構えを見せる。

 森氏の発言に対しては組織委のスポンサー企業も相次いで批判の声を上げた。7千億円を超える組織委予算の約半分は国内協賛企業が支えている。協賛各社の信頼を取り戻すことも重要だ。

 五輪開催の見通しはやや明るくなってきたとはいえ、観客をどの程度の規模で受け入れられるかは、今後の国内と海外のコロナ感染状況を見ながら決定することになる。

 無観客となれば、組織委は赤字となるだろう。健全な財政の確立も重要課題として待ち受ける。(共同通信・竹内浩)

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