国内初となる新型コロナウイルス感染症のワクチンが承認された。日本は海外に比べて大きく出遅れたが、最前線に立つ医療従事者に続いて高齢者や持病がある人への優先接種がようやく始まる。1年以上も続く流行を早く収束に向かわせるための重要なステップだ。

 ただ多くの人に行き渡るまでには時間がかかるし、思わぬ混乱もありうる。福島県沖で起きた地震は不測の事態を想定した備えの必要性をあらためて思い起こさせた。不正確な情報に踊らされることなく、マスク着用や3密(密閉、密集、密接)回避といった従来の感染防止策を続けながら、焦らず冷静に接種を進める必要がある。

 ウイルスが見つかってからこれだけ短期間で何種類ものワクチンが実用化されたのは驚くべきことだ。臨床試験のデータには幅があるが、国内で接種が始まるファイザー製のワクチンは発症を防ぐ有効性が95%と非常に高いとされる。

 接種で先行するイスラエルでは、すでに高齢者の感染や入院が減ったとの報告がある。接種率が高まって免疫を持つ人が増えると、集団の中でウイルスが広まりにくい「集団免疫」ができると期待される。

 大切なのは社会の中で最も弱い人たちを守ることだ。新型コロナは高齢者ほど重症化しやすく、国内では60歳以上の人が感染すると18人に1人が死亡する。昨年からの「第3波」の流行で入院患者が大きく増え、1日に100人以上の死者が報告される日もある。

 ワクチンは感染を完全に防げなくても、高齢者や持病がある人の重症化を回避して救命につながる期待がある。こうした人が接種を受けるメリットは比較的大きい。

 ワクチンは体にとって異物なので人によって接種部位の腫れや痛みといった副反応が起きる。米国の最新データでは、ファイザー製のワクチンでアナフィラキシーと呼ばれる全身性の激しいアレルギー反応が起きたのは約20万人に1人。アレルギー体質の人は接種後に医師らがすぐに治療できる状態で様子を見ることで対処できる。一人一人が自分の健康状態を理解し、個人や社会の利益とリスクとのバランスを考えた上で接種を受けてほしい。

 心配なのがウイルスの変異株に対する有効性だ。英国やブラジル、南アフリカなどで広がった変異株は、人の細胞に取り付く表面突起の形が変化して感染しやすくなっているとみられる。

 現在のワクチンは従来株を想定するため変異株に効きにくく、特に南アフリカの変異株の発症を防ぐ度合いが低いとの報告がある。製薬会社はすでに変異株に効くワクチンの開発に乗り出している。最新手法のRNAワクチンなら数週間で開発可能という。変異株と従来株の両方に効くワクチンも検討されている。

 ただワクチンは万能ではない。接種しても一定の割合で発症する可能性があり、時間がたつと効果が落ちる。無症状を含む感染そのものをどの程度防げるかも未知数だ。

 だから自分が接種を受けても、当面はマスク着用などの対策を続けよう。以前のような自由な暮らしに戻るのはもう少し先だ。国内で変異株が流行するのを防ぐのにも役立つ。出口が見えてくるまでの間、自分だけでなく他者に配慮した責任ある行動を心掛けたい。(共同通信・吉村敬介)

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