東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が辞意を固めた。女性蔑視発言が国内外から強い反発を受け、退任せざるを得なくなった。

 森氏は発言を撤回、謝罪し、一時は続投の意向を示していた。だが、日本の多様性や男女平等の精神に対し、国際社会の疑念を招いた責任は重大で辞任は当然だ。

 五輪は世界で最も親しまれている社会的なイベントであり、その組織委は、進化する社会の価値観に敏感でなければならない。後任会長には日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏が就任する見通しだ。新体制は新型コロナウイルス感染症への不安も抱える市民とアスリートの声に耳を澄ませ、信頼回復に全力を尽くしてほしい。

 「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」などの森氏発言は怒りと失望を呼び起こし、謝罪会見からは真摯(しんし)に反省する姿勢が全く感じられなかった。組織委と東京都には抗議が殺到。大会ボランティアは次々に活動の辞退を伝え、インターネット上では退任を求める署名運動も広がった。

 ドイツをはじめ欧州各国の在日大使館などからはツイッターで「黙っていないで」「男女平等」を意味する英語のハッシュタグ(検索目印)付きで意見表明が相次いだ。

 こうした反応を森氏や組織委側が深刻に受け止めていれば、退任時期は早まっていたのではないか。組織委の活動を資金面で支える協賛企業が不買運動に発展することなどを恐れ、批判の声を上げ始めたことで辞任に傾いた印象は否めず、釈然としない思いが残る。

 国際オリンピック委員会(IOC)は当初、森氏の発言撤回と謝罪で「決着した」と不問に付す構えだったが、「完全に不適切だ」との声明を出し直した。組織委トップの交代を望む意向をにじませたものの、拡大する批判に押された感はある。

 菅義偉首相も森氏の進退について「組織委が判断する問題だ」と明言を避け続けた。首相に組織委会長に関する人事権はないが、国益にとって好ましくないというなら退任を明確に促すべきではなかったか。元首相である森氏への遠慮があったとすれば、世界的行事を担う一国の指導者の態度として疑問がある。

 森氏は、女性の社会進出を加速させる歴然たる流れがある中で、耳を疑う発言を行った。しかし、五輪精神を体現しなければならない組織委の理事会メンバーからは、退任要求は出てこなかった。個人の資質の問題だとしても、組織の健全性を問われかねない。

 理事会が民主的で活発な議論を進める組織ではなく、話が長くならないよう、森氏が言う「わきまえて」審議する体質だとすれば猛省すべきだ。

 組織委のイメージは地に落ちたが、国際的なスポーツの祭典、五輪の本質的な価値は重い。

 多くの批判が巻き起こったのは、裏を返せば、五輪の意義が一人の見識が疑われるリーダーの発言によって、傷つけられるようなことがあってはならない、との思いが広く共有されたからだろう。

 東京五輪開幕まで半年足らず。森氏に代わる組織委会長に求められるのは、万全なコロナ対策とともに、性差別と闘う姿勢を早期に打ち出し、男女共同参画を推進すると約束することだ。そして多様性の尊重を改めて誓う必要がある。(竹内浩)

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