作家の司馬遼太郎さんがこんなことを語っていた。「言語には文章の言語と口語と二通りあり、日本では話し言葉の方は書き言葉よりも重んじられていないようだ」。人間の魂を揺り動かし、魂の基礎をつくっていくのが言語であり、だから母親は赤ん坊の目が開かないうちから語り掛ける、とも◆女性蔑視発言で批判を浴びた東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長がきのう、辞意を固めた。振り返ると「神の国」など失言は多かった。幅広い人脈を持ち、東京五輪やラグビーW杯の誘致に力を尽くしたが、その功績が一瞬で崩れる言葉の「怖さ」を思う◆こちらにそんなつもりはないのに、何気ない一言で相手を傷つけてしまうことはある。売り言葉に買い言葉というケースもあるだろう◆だからこそ一言一句を大事にしたい。書き言葉も話し言葉も「相手を思う心」があれば、大きな間違いはしないはずだ◆『竜馬がゆく』をはじめ、司馬さんの歴史小説には優しく、自己を確立した人物が数多く登場した。きょう12日は司馬さんの命日「菜の花忌」。亡くなって四半世紀がたつ。司馬さんは「その人に対して心が優しくなければその人の長所は分からない」という意味のことも言っていた。菜の花を好んだ司馬さんらしい、やさしい表現に「言語の大切さ」をあらためて考える。(義)

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