ものを考えてはいけない。レイ・ブラッドベリの『華氏451度』はそんな社会を描いたSF小説。余計な知識を与える本は読むことが禁じられ、取り締まる「焚書(ふんしょ)官」が市民の隠し持った書物を焼き払う。人びとはどこへ行くにも耳にぴったりはまる超小型ラジオを楽しみ、家に帰れば壁一面に映し出されたテレビに夢中…◆約70年前に書かれた空想の世界は、いやに現代と重なって見える。電話も音楽も小さなイヤホンで、居間の壁は大型テレビが占領する。規制されたわけでもないのに、本を手に取る人は減った◆佐賀市できのう、県内の公立図書館で働く司書のつどいが開かれた。焚書官とは逆の、こちらは読書熱に火をつける人たち。県立図書館の呼びかけでネットワークをつくり、蔵書の相互貸し出しや調べもの相談を一層充実させていくという◆自治体の財政が厳しくなるなか、図書館が垣根を超えて補完し合う。真偽不明の情報が瞬時に拡散する時代の、たしかな道しるべとして、地域の「知の拠点」が果たす役割は大きい◆読書は「振り子」のようなものだと、詩人の長田弘さんは述べている。〈過去に、過ぎた時代のほうに深く振れたぶんだけ、未来に深く振れてゆくのが読書のちからです〉。明日への手がかりが身近な図書館にある。ものを考えなさい、そう語りかけるように。(桑)

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