新型コロナウイルス禍に悩まされている今、なぜ狙い撃ちのように医療費負担増を迫るのかと、やるせない思いを募らせる高齢者も多いだろう。

 政府は、75歳以上の後期高齢者で一定以上の所得がある人を対象に、医療機関の窓口で支払う自己負担割合を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法案を国会に提出した。2022年度の後半に実施する予定だ。

 少子高齢化が進む中、社会保障制度の持続可能性を高めるには、年齢を問わず全ての世代で支え合う仕組みづくりが不可欠だが、政府には今回の負担増について納得できるよう丁寧に説明を尽くしてほしい。

 現在、75歳以上の窓口負担は原則1割、現役並みの所得がある人は3割だ。新たに2割負担となる年収の目安は単身世帯で200万円以上、夫婦世帯で320万円以上。約370万人が該当する。08年度に後期高齢者医療制度がスタートして以来の大きな改正となる。

 政府は窓口負担見直しを「全世代型社会保障改革」の柱と位置付け、19年秋から議論してきた。「単身で年収200万円」などの所得基準の線引きは昨年12月、菅義偉首相と山口那津男公明党代表が会談して決めた。

 人口の多い団塊の世代が22年から後期高齢者の仲間入りを始め、医療費の膨張が加速する。75歳以上の医療費は約4割を現役世代の保険料を原資とした「支援金」で賄っており、これが21年度の6兆8千億円から25年度には8兆1千億円に膨らむと見込まれている。現役世代1人当たりでは年約8万円に上る。

 このため政府は「若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくため、高齢でも負担能力のある人に可能な範囲で負担していただきたい」と「全世代型改革」の意義を強調してきた。

 しかし、今回の見直しでも現役世代の支援金負担を抑制できるのは25年度時点で年830億円、1人当たりでみればわずか800円にすぎない。半分は事業主負担だから、本人の軽減効果は月に30円程度。これでは「若い世代の負担を和らげた」とはとても言えまい。「全世代型改革」を掲げながら、結果的に世代間の対立をあおっただけのようにも映る。所得基準の線引きの妥当性が問われよう。

 厚生労働省の試算では75歳以上の平均負担増は年2万6千円という。心配なのは、ただでさえ新型コロナ感染を恐れて患者が医療機関を受診するのを避けがちなのに、受診控えに拍車が掛かって適切な医療を受けそびれてしまう恐れがある点だ。コロナ禍で収入減にあえぐ医療機関の経営にも打撃となりかねない。厚労省は注意深く影響を検証するべきだ。

 もっとも、高額な医療費支払いに上限額を設ける「高額療養費制度」という仕組みがあるから、窓口負担が1割から2割になっても、長期入院や手術などの場合に支払いが単純に倍になるわけではない。また今回の法案では、実施から3年間は外来受診の負担増を月3千円に収める措置が盛り込まれ、受診控えなどに歯止めをかける工夫もみられる。医療を受ける側も頭に入れておきたい。

 高齢者医療の安定的な給付には、一層の消費税率引き上げを含む負担増に正面から向き合う必要がある。与野党には長期的視野に立った国会論戦を期待する。(共同通信・内田泰)

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