しわだらけの手、シミのある目元、まばらな髪…。細密な鉛筆画で知られる画家木下晋さんは、やせ衰えた老人を数多く描いてきた。あるとき脚本家の山田太一さんが尋ねた。絵を描く人なら、若い女性を描きたい、その美しさもたまには自分の絵にしたいとか思わないのですか、と。木下さんはさらりと答えた。「しわのない肌はつまらないから」◆しわもシミも、白髪も抜け毛も、世間から見れば老いは「マイナス」でしかないが、実はそこに豊かな価値があるということなのだろう。「女性にとって最良の夫は考古学者だ」と、ミステリー作家アガサ・クリスティーも語っている。なぜなら「妻が年をとればとるほど夫が興味をもってくれるから」◆全国で65歳以上の女性は2018年に初めて2000万人台に突入し、同世代の男性を500万人近く上回っている。今世紀半ばには5人に1人は高齢女性が占めるという。人口減少が進む社会で、彼女たちの存在感は増している◆ただ、この世代で働いているのは男性に比べまだ半分ほど。近ごろ盛んに語られる女性活躍も、ちゃんと彼女たちまで人数に入れてあるか、少々気になる。元気なおばあちゃんたちが、元気のない社会に活力を与える。そんな時代は遠くない◆また話し合いが長くなる…と嘆く御仁がおられないか心配ではあるが。(桑)

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