若い頃、友人に頼まれて有明海で「ノリ摘み」を手伝ったことがある。真夜中に出港。漁場に着くと箱舟に乗り換え、海面に張られたノリ網の下をくぐらせながら、巻き取り機でノリを刈り取っていく。寒い。暗くて怖い。省力化が難しい作業に、「これは大変」と思った◆数時間後、ノリ小屋に戻ると友人の母親がラーメンを作ってくれた。鉢の中に、その年のノリが1枚。口の中でとろりと溶け、極上のうまさだった。「黒いダイヤ」と呼ばれた歴史もうなずける◆きのう6日は「ノリの日」だった。ノリを租税の一つに定めた日本初の本格的な法律「大宝律令」が施行された702年2月6日にちなむ◆佐賀県はノリの生産量が日本一で、消費量も日本一。ノリ摘みを手伝ったあの年、ノリの出来がどうだったかは覚えていないが、その後、「宝の海」有明海は海況異変に苦しみ始めた。ノリが大不作に見舞われ、沿岸4県の漁業者が「諫早湾干拓事業」潮受け堤防排水門の開門を求め、海上で抗議活動を展開したのは2001年1月だった。あれから20年。法廷闘争に発展した開門の行方は出口が見えないままだ◆友人はその後、海の仕事から離れながらも、その年のノリを贈ってくれるようになった。ラーメン鉢の1枚を味わいながら、有明海の恵みと海に生きる人たちの労苦に感謝する。(義)

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