ものを数えるとき、未開の地では「ひとつ」「ふたつ」までしか数詞がなく、それ以上はすべて「たくさん」であらわす種族があるらしい。日本でも「みっつ」は「満つ」、つまり「たくさん」と呼んだ古代の名残とする説もある。それが「3」として定着すると「よつ」が、次は「いつつ」が、「たくさん」の意味で使われるようになったという◆社会の広がりとともに、大きな数をあらわすことばが生まれる。去年のいまごろ、中国での騒動にすぎなかった未知のウイルスは、世界の感染者がはや1億人。一向に減らない都市の人出、ひっ迫する病床、ワクチンは行き渡るのか…私たちは日々、数字におびえている◆一方、国内で昨年亡くなった人は1万人以上減った。手洗いやマスクの着用でインフルエンザが流行せず、外出自粛で交通事故も少なかった。ただ、がん検診などを控える人も多く、コロナを恐れる社会が別のリスクを抱える心配もある◆「進歩」という杉山平一さんの詩がある。〈人は同時に両側を見ることはできない/右なら右の 片側の景色ばかり見ているので/車がいつのまにか同じ道を 帰っているのに/行きと反対側の景色に接して/前へ前へ進んでいると 思い込んでいるのだ〉◆迷路のような時代を、進んでいるのか、戻っているのか、わからなくなるときがある。(桑)

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