人口当たり病床数が主要国で最多の日本は、新型コロナウイルス患者用の病床が逼迫(ひっぱく)し医療崩壊の危機にある。これに対し政府は、国や都道府県知事が病床確保を医療機関へ「勧告」できるようにし、正当な理由なく応じない場合は病院名を公表可能とする感染症法改正案を国会に提出、与野党で修正協議に入った。

 病床確保が進まない背景には日本の医療界特有の構造問題がある。感染症に対応できる人材、規模、設備を持つ公立・公的病院が少なく、中小の民間医療機関が多い現状では法的強制力ですぐに実効が上がるか疑問だ。

 今の危機を乗り切るには、医療界全体が総合力を結集できるよう連携態勢を構築することが優先だ。自治体と地域医療が早急にワンチームになれるよう政府はリーダーシップを発揮してほしい。

 菅義偉首相は「ベッドは数多くあり民間病院に働き掛けている」と言うが、全国にある約90万病床のうち確保できたコロナ用は約2万8千床(約3%)にとどまる。コロナ患者を受け入れ可能な医療機関は公立病院で7割、公的病院では8割なのに対し、全医療機関の7割を占める民間は2割なのが響いている。

 小規模な民間病院はコロナ用と一般用病床を隔てづらく、院内感染防止が難しい。専門性がある医師や看護師も少ない。受け入れれば他の病気の受診控えや風評被害で病院経営が揺らぐ上、民間は赤字になっても公的支援を期待しにくい。政府は1床当たり最大1950万円の財政支援で確保を促すが、協力困難な事情が民間病院にはある。

 一方、冬の大流行に備えた病床確保の必要性は早くから指摘されていた。厚生労働省が昨夏示した、ピーク時に全国で約2万7千床という確保目標は既に達成した。ただ昨夏の時点では1日当たりの新規感染者を2788人と想定したが、最近では5千人台の日が続き、入院待機中の死亡が各地で相次ぐ。さらなる病床確保は急務だ。

 だが対策は遅れた。東京都は緊急事態宣言の再発令後、コロナ病床の8割が埋まり、入院先などを調整中が7千人を超える逼迫のピークを迎えて、ようやく都立・公社の3病院を拠点にコロナ患者を集中的に受け入れる方針を表明した。もっと早く決断すべきだった。

 公立の大病院などは実質的にコロナ専門とし、民間病院はコロナ以外の患者に対応する。大病院に入院後、回復期に入り他人にうつす危険性がなくなったコロナ患者の転院も民間で受け入れる―などの役割分担、相互連携の枠組みも必要性が叫ばれ続けたが、最近やっと本格的検討に入った。

 今回の「勧告」導入は、大都市圏の厳しい現状に対応するためだ。協力可能なのにしない民間病院も一部にあり、自治体側は病床確保に苦悩している。だが中小病院への無理な強制力行使は、行政と医療機関が築いた信頼関係を壊しかねない。

 厚労省は地域の「かかりつけ医」を重視する政策を推進してきた。患者に身近な民間のかかりつけ医は、無駄な検査や投薬を減らし、医療の質や経済性を高められる利点がある。民間病院の多さはコロナの大流行で弱点が見えたが、長い目で見ればプラス面も大きい。

 官民連携で危機を克服すると共に、日本の良さを維持しつつ感染症に強い医療を実現する構造改革もしっかり進めたい。(共同通信・古口健二)

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