「男はつらいよ」シリーズで寅さんを演じ続けた渥美清さんに、イメージを一新しようと企画された幻の映画があったという。東京五輪が終わったあと、次の大会を目指して練習に励む選手の中に、金メダル確実と評判の砲丸投げの女性がいた。なんとこれが渥美さん◆性別を間違えられて育ったこの主人公、美人の陸上選手を見かけると、気が散って成績が振るわない…。やっぱり寅さんみたいな話だが、「こんな下品なもの、渥美にやらせられるか」と松竹の社長が怒って撮影は見送られた。脚本家の早坂暁さんが回想している◆1年延期された東京五輪の開幕まで半年を切った。コロナ収束の気配は見えず、世論調査では8割が「この夏は無理では」と危ぶんでいる。英紙まで「内々に中止を決めた」と報じた。喜劇映画の主役どころではなく、選手たちは心穏やかではいられまい◆「人類がコロナに打ち勝った証しに」と政府は威勢がいいわりに、選手の感染防止策や観客を制限するかどうか、具体像ははっきりしない。国民が希望を抱く確かな道筋はいつ見えるだろう◆「ボクサーはいいよな」。渥美さんは語ったという。「タオルを投げてくれる人がいるからね。役者は自分で投げなきゃならないから」。コロナ禍の祭典もまさか、そのタイミングを計っているとは思いたくないのだが。(桑)

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