染付騎牛笛吹童子文中皿(天神森窯跡/1620〜30年代)

 令和3年の年が明けた。今年は、十二支では2番目の丑うし年。新年の最初は磁器に描かれた干支えとの図でも紹介したいところだが、実は日本の古陶磁では、牛はなかなかレアである。「牛に経文」「牛を馬に乗り換える」など、故事・ことわざの類いは多いものの、日本ではいい意味で使われることは少なく、磁器の題材としてはやや取り上げにくい。

 掲載写真は、天神森窯跡から出土した「騎牛笛吹童子文中皿」。1620年代頃の中国で、8種類の画譜をまとめた「八種画譜」に見られるもので、和刻本も1672年に刊行されているが、製作時期的に中国の原典に倣ったものであろう。

 この図は、もともと10枚の図と詩からなる北宋時代の禅僧・廓庵作の「十牛図」に見られる構図で、その中の6番目「騎牛帰家」にちなんだものである。理想とする自己を牛、現在の自己を童子になぞらえ、逃げ出した牛を連れ戻して飼いならすまでの修行の過程を描いたもので、「騎牛帰家」とは、水牛の背に乗り笛を吹く童子、つまり、悟りを得て牛を御する必要もない状態を表している。

 10番目の「入鄽垂手にってんすいしゅ」、つまり、人を導くところまではともかく、よわいを重ねてせめて「騎牛帰家」には達したいところだが、いまだ3番目の「見牛」どころか、せいぜい足跡だけが見つかる2番目の「見跡」くらい。今年こそは、牛の尻尾くらいは見つけられるようにできればと思う。(有田町歴史民俗資料館長・村上伸之)

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