球を遠くへ飛ばす。奥が深く難しい。6年前、野球好きのタレントがホームランに挑むテレビ番組を見た。柵越えはなかったが、400球以上振り続けた姿に感心した。球の見極め、とらえ方などいくつかの条件がそろわないと、あの美しい放物線は生まれない。一朝一夕にはできないと思った◆米大リーグで通算755本塁打を記録したハンク・アーロンさんが86歳で亡くなった。大リーグでは、バリー・ボンズ選手に抜かれるまで30年以上歴代1位だった◆ホームランが記憶に残るのは美しさに加え、逆転勝利など劇的ドラマを生むからでもあろう。苦しくても、辛抱すれば「一発逆転」できる日がくると人は信じる。ただ、機会に恵まれる運と不断の努力が必要だ。「一発」は単打を積み重ねる先に生まれる◆アーロンさんと日本の本塁打王だった王貞治さんは同世代。アーロンさんは、ベーブ・ルースの世界記録714本を抜いた1974年に来日。当時634本の王さんとホームラン競争をし、10対9で勝っている。2年後の76年、アーロンさんは755号を記録して引退、王さんは715号を放ち、翌77年に756号まで伸ばして世界一に躍り出た◆アーロンさんは「王さんが抜いた」選手として記憶されていると思うが、記録は個人の所有を離れ、次世代の目標。その数字は色あせない。(義)

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