日本が明治維新を迎えようとするころ、米国では「たたき上げの苦労人」が大統領だった。貧しくて学校へ行けず、仕立て屋の見習いから独立し、政治に目覚める…。近ごろどこかで聞いたような話だが、第17代のアンドリュー・ジョンソンである◆前任のリンカーンに気に入られ、副大統領を務めていた1865年、大統領が暗殺され思いがけず昇格した。ところが遊説先で「神は故意にリンカーンを死にいたらしめた。だから、私が大統領になったのだ」と口を滑らせ、急速に支持を失う。彼が歴史に名を刻んだのは、罷免を求める弾劾裁判に初めてかけられたことと、次期大統領の就任式を欠席したことだった◆暴言と弾劾訴追の数で上回るトランプ氏も、同じようにそっぽを向いてホワイトハウスを後にした。中国と対立し欧州にも背を向け、自国の利益のみを追い求めた4年間は、米国のあけすけな「本音」だったろう。グローバル化によって経済格差や人種間の「分断」が進む社会の病理は、かの国に限った問題ではない◆A・ジョンソン大統領の名誉のために書いておくと、ロシアからアラスカを買収するなど外交の成果も残した彼にこんな言葉がある。「我々がめざす目標とは、政府は貧しくとも、国民は豊かであることだ」◆幕を開けた「バイデンの時代」にもあせない響きがある。(桑)

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