経団連が春闘の交渉方針を示す「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を公表し、2021年春闘が事実上始まった。新型コロナウイルスの感染拡大で日本経済は低迷しているが、企業業績はばらつきが大きい。余裕のある企業を中心に、経営側には最大限の賃上げ努力を望みたい。

 経労委報告も、企業業績に応じた賃上げを求めている。業績が悪化した企業は「事業継続と雇用維持が最優先」として、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は「困難」とする一方、高収益の企業は「ベアも選択肢」と明記した。厳しい経営環境下でも、ベアを一律に排除しなかったことは評価したい。

 連合は、ベア要求の水準を6年連続で月給の2%程度とし、定期昇給分の2%を加えた計4%程度の賃上げを目指す。コロナ禍の中でも、これまでの要求水準を維持したが、産業ごとに「最大限の『底上げ』に取り組む」との表現で、業績の厳しい業種に配慮した。

 確かに企業がコロナから受けた打撃は一様ではなく、業績の二極化が鮮明になっている。SMBC日興証券の集計によると、東京証券取引所1部上場企業の20年9月中間決算の純利益は合計で前年同期比37・1%減と落ち込み、航空や鉄道、観光、飲食などが大幅減益となった半面、巣ごもり需要でソニーなど一部企業が大幅増益となった。

 業績が大きく悪化した業界では、人員削減やボーナス抑制に動く企業が相次いでおり、これらの企業が賃上げに消極的なのは理解できる。しかし、好業績を上げた企業は、利益を可能な限り社員に還元するよう努めるべきだ。業績の厳しい企業は、せめて雇用の維持に力を尽くしてほしい。

 政府は今春闘でも、「経済の好循環を進めるため」賃上げの流れを継続するよう経団連に要請した。デフレ回避のため経営側に賃上げを促した安倍前政権の路線を菅政権も引き継ぎ、14年から続いてきた賃上げの勢いが鈍化することに危機感を表した形だ。

 心配なのは、景気の先行きが急速に不透明さを増していることだ。コロナの感染拡大で政府は2回目の緊急事態宣言を発令したため、足元の1~3月期は、実質国内総生産(GDP)が再びマイナス成長に陥る懸念が指摘されている。経営者の心理が弱気に傾けば、賃上げには逆風となる。

 しかし、コロナ前から好業績を上げてきた企業には、財務上の余力があるはずだ。19年度の法人企業統計では、企業の内部留保に当たる利益剰余金が475兆円と、8年連続で過去最高を更新した。現在も相当の剰余金を蓄えている企業が多い。こうした企業は、この局面でも、十分な賃上げで従業員に報いることができるのではないか。

 日本経済は、19年10月の消費税増税の打撃にコロナが追い打ちとなって個人消費が冷え込み、デフレ再来の恐れが強まっている。消費回復の鍵を握るのは、賃上げだ。賃金の上昇は景気回復に寄与し、企業の収益拡大につながる。経営側は賃金交渉を大きな視野で考える必要がある。

 政府に求められるのは、企業が安心して賃上げができる環境の整備である。コロナの感染防止に全力を傾注し、早期の感染収束を目指すとともに、事業者や家計を手厚く支援し、景気の本格回復の展望を開いてほしい。(共同通信・柳沼勇弥)

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