菅義偉首相は通常国会冒頭の施政方針演説で、政権の目標は国民に「安心」と「希望」を与えることだと強調、新型コロナウイルス感染症対策について「私自身も闘いの先頭に立つ」と表明した。

 しかし、緊急事態宣言の再発令後も感染拡大は収まらず、「安心」には程遠いのが現状だ。首相は昨年10月の所信表明演説で「爆発的な感染は絶対に防ぐ」と明言する一方で経済支援策「Go To キャンペーン」の事業などを続け、今の事態を招いている。

 政治は「結果責任」である。その反省の言葉もないまま「先頭に立つ」と言っても、国民に切迫した危機感は伝わるまい。難局に臨むリーダーとしての責任の取り方を明確に示すべきだ。

 演説から浮かび上がるのは、現状認識の甘さと責任回避の姿勢だ。緊急事態宣言の対策は飲食店の時短営業が柱で、首相は「1年近くの経験に基づき、効果的な対策を行う」と述べた。だが、専門家は時短営業だけでは不十分だと指摘する。

 宣言解除の見通しについても「一日も早く収束させる」「ステージ4(爆発的感染拡大)を早急に脱却する」と述べただけだ。政府はステージ3を宣言解除の目安とするが、3は「感染急増」状態でしかない。それで国民が安心できるのか。政府は責任の持てる解除基準を明示すべきだ。

 早期成立を図る新型コロナ特別措置法の改正案について、首相は「罰則や支援」を規定すると述べた。支援よりも罰則に重点があるようだ。演説では触れなかった感染症法の改正案でも罰則導入が検討されている。

 専門家は罰則による効果を疑問視している。私権を制限する罰則は慎重な検討が必要だ。国会論戦では有効な感染症対策とともに、生活支援策、罰則の在り方について、議論を尽くすべきだ。

 東京五輪・パラリンピックの開催もコロナ次第だ。首相は「世界中に希望と勇気を届ける大会を実現する決意」を強調したが、世界の感染状況を冷静に見極める段階に入ったと考えるべきだ。

 首相は政権4カ月の成果なども強調した。しかし、重要なのは演説で語らなかった課題だろう。東日本大震災、東京電力福島第1原発事故は3月11日で発生から10年となる。首相は「東北復興の総仕上げに全力を尽くす」と述べた。いまだに4万人以上が避難生活を強いられている現状を、「総仕上げ」とひとくくりにしていいのか。

 事故原発の廃炉への取り組みや喫緊の課題である処理水の処分方針については一言も触れなかった。見解を示すべきだ。

 「政治とカネ」の問題も同様だ。安倍晋三前首相を巡る「桜を見る会」問題では、官房長官当時の自らの答弁が事実と異なっていたと謝罪した。

 だが、在宅起訴された吉川貴盛元農相の贈収賄事件など一連の事件には触れなかった。「国政を預かる政治家にとって何よりも国民の信頼が不可欠だ」と述べるならば、政治不信の解消に指導力を発揮すべきだ。

 2021年度予算案は一般会計総額が106兆6097億円と過去最大になる。コロナ対策で財政出動が必要な面もあるが財政再建への具体的言及はなかった。経済成長の原動力として挙げた脱炭素社会の実現、デジタル化推進とともに、どう具体化するのか。国会で深掘りの議論を求めたい。(共同通信・川上高志)

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