「佐賀の七賢人」の一人、副島種臣の書に「針小棒大」とあった。「小」の文字が極端に大きく、逆に「大」は小さい。〈このしゃれっ気と、余裕、ものを書く創造の姿勢に心打たれる〉。画家安野光雅さんは生前、スケッチ紀行で県内を訪れ、こんな一文を残した◆〈書道の正道などは問題にしないで書いている。だから型にはまるということがない。その文字の一点一画が次々と新しい世界を開いている〉。書聖を評しながら、安野さん自身のようでもある。遊び心と想像力たっぷりのだまし絵、エッセーの名手…。型にとらわれず新たな世界を開いた94年の生涯だった◆国内や海外を旅し、失われつつある風景を描いた。〈緑が失われると、空気が悪くなるとか、虫やけものがいなくなる、といった直接的な弊害がでてくるのは勿論(もちろん)だが、わたしはそれが人間の美意識に必ず作用せずにはおくまい、と思う〉。温かい色彩の風景画には、そんな危機感が静かににじむ◆ついでながら、種臣の書に魅了された安野さんはこうも書いた。〈今の政治家が、扇面や色紙に「心」「誠」「努力」などと書いたものを見かけたことがあるが、その文字の持つ意味と、書の姿があまりにかけ離れていて、あまりありがたくない〉◆コロナ対策で政治の力が問われるいま、ゆめゆめ「針小棒大」とも書けまいが。(桑)

下記のボタンを押すと、AIが読み上げる有明抄を聞くことができます。

このエントリーをはてなブックマークに追加