広く深く知識を得る方法について話すKADOKAWA編集委員の原孝寿さん=佐賀市天神の佐賀新聞社

 幕末の藩校・弘道館をモデルに、各分野で活躍する佐賀県ゆかりの人を講師に招く県の事業「弘道館2」がオンライン講演で開かれた。講師は佐賀市出身でKADOKAWA編集委員の原孝寿さん(45)=東京都。クイズが趣味で自らもテレビのクイズ番組に出演経験がある「クイズの達人」が、「『雑学』-クイズの達人が伝授する、広く深く知る方法-」をテーマに語った。講義の模様を詳報する。(西浦福紗)

はら・たかとし 1975年生まれ。佐賀市出身。佐賀西高校、広島大学文学部卒。98年に角川書店(現・KADOKAWA)入社。新書編集長、ノンフィクション書籍編集長を経て現在は編集委員として新しい書籍づくりに励む。趣味はクイズで、テレビ番組「アタック25」の優勝経験や「99人の壁」出演など活躍している。過去、日本クイズ協会の理事も務めた。

 

クイズとの関わり

◆クイズへの第一歩

 子どもの頃、第2次クイズブーム真っただ中だった。テレビ番組「アタック25」や「クイズグランプリ」といった番組に視聴者が出演して競う参加型のクイズ番組を見て育った。
 高校生の時は第3次ブームが起こり、クイズ王を決める番組が増えてきた。会社や学校を1カ月ほど休んで、クイズをしながらアメリカ大陸を渡る「アメリカ横断ウルトラクイズ」や「史上最強のクイズ王決定戦」などがあった。
 クイズ番組を見ていると、「なんで答えられるの」と思う人はいると思うが、「できるんじゃないか」と思ったのが始まりだった。


◆「できそう」は大切にして

 「あれ、自分にもできそう」と思った気持ちは大切にして、周りからとやかく言われても挑戦してほしい。
 「(クイズ番組に出て)恥ずかしくないの?」と当時、よく言われた。周りの声は気にしてはいけない。「できそう」と思ったことは楽してできる努力だから、やった方がいい。

 

考える力を付ける

◆広く深く知る人は成功者なのか?

 「広く知識を持ってどうするのか」という批判もあるが、世の中でクリエイターと呼ばれたり、仕事が早かったりと活躍している人は物知りな人ばかり。
 そういった人は、常に多方面に渡る知識や情報の引き出しをたくさん持っている。自分の専門分野の知識を蓄積しているだけではない。話題の種になるような最新の映画を見たり、賞をとった本を読んだりと、モノを知る習慣が身に付いている。


◆構えないで興味のある本を読んで

 長期的に使える知識は本で得ることが多い。テレビや新聞などで得る「ニュース」の情報より、本で得る知識が広い意味で「教養」につながっている。忙しくても、年間100冊近くは読むようにしている。構えず、興味のある本を自然に読めばいい。


◆AIによる操作から抜け出して

 聞いて分からないことがあったら検索する。検索しないのは良くない。インターネットの中に膨大な知識があるので、検索して情報を得ていく。
 注意すべきは、放っておくとAI(人工知能)により操作されてしまう状態に陥ること。たとえば、通販サイトを使っていると「あなたにおすすめはこういう商品」と勧める機能がある。過去に自分が1度取ったスタンスから逃げられなくなる。その状態から、意図的に違うことをする作業は必要。
 AIが選別してくれた物事から一歩引いたり、遠ざかったりする作業をしないと、知らず知らずのうちに人と同じものを見て同じことを考えるようになる。考える力は付かず、本物の自分ではなくなる。


◆効果的なのは新聞、本屋

 定点観測をしてほしい。新聞を読むことは大事。新聞は他人の目が入った編集方針の下で取捨選択された情報が掲載される。必ずしも過去の自分自身の好みで作られているものではない。そういった他者が選んだ情報を強制的に浴びることが刺激になる。
 本屋に行くのもおすすめ。本屋には書籍編集者というプロが、「どのようにしたら買ってもらえるか」を極限まで考えて作ったパッケージが並ぶ。そういった物を見て、発想のヒントを得たり、流行しているものを知ったりできる。佐賀には、本間悠さんというカリスマ書店員さんがいる本屋もある。クイズ番組を見ることも、強制的な刺激になる。

 本を読む人の中で、1番すごいと思ったのは池上彰さん。昔聞いた数字で、家に2万冊あると聞いた。5千冊あれば古本屋さんが開くことができ、小さい本屋さん4軒分くらいの本があることになる。毎日1冊読んだとしても1年で365冊で、40~50年くらいかかる。おまけに新聞も毎日、14紙読むと聞くからすごい。

 

【MEMO】明林堂書店南佐賀店・本間悠さん

 

 平台などがすごく充実していて、見るだけでもインスピレーションを感じる。全国の書店員さんが注目する本屋さんでもあり、本間悠さん=写真=というカリスマ書店員さんがいる。「この人が宣伝すると重版1回かかる」と言われるほど。佐賀の若い人はそういう本屋に通ってほしい。
=DATA=
住 所 佐賀市南佐賀1丁目21番12号
電 話 0952(25)3060
営 業 午前10時~午後10時まで
店休日 年中無休

 

雑学・教養のすすめ

◆視点が大事

 「教養」と呼ばれる段階まで知識を高めようとするならば、ただ漠然と本を読むだけでは至れない。視点が大事。本は拾い読みでもいいが、「どこを拾い読みするか」が肝になる。本を読んだとしても、知識が頭に入っていなければ意味がない。知識を得るには、自分が興味のある事柄などにこだわって読んでほしい。


◆得た情報は使ってみる

 一度得た情報は使ってみて、確かめる作業をした方がいい。たとえば、検索したものが街にあるものであれば、実際に自分の目で見てみる。
 ありがちなのが、はやっている本や賞を受賞した本の名前や作家を知っているだけの状態でとどめてしまうこと。その本を話題にしたときに、面白かった場面やオチの話ができるように、知識は深めておく。


◆旅と人と本

 「知の巨人」と言われる立命館アジア太平洋大学の出口治明学長が口にする「旅と人と本」という言葉がある。その3つで情報を得ることを表した言葉。人しか持っていない情報があり、人と会い、本で見た知識を深めたり、さらに旅に出て実体験したりすることで、新しい発想につながる。例えば、今回の帰省を機会に、趣味である銭湯を訪問しようと県内の銭湯の数を調べて、実際に唐津にある銭湯・恵びす湯に足を運んだ。知識は体験を含めた一歩踏み込んだ状態で自分の中に持ってほしい。
 現在、コロナ禍で人と旅が封じられている状態にある。リモートで旅に似たことができるようになり、普通だったらつながれなかった人とつながる機会ができた。生かせるものを生かして可能性を広げてほしい。いまのうちに本を読んでおくのもいい。


◆足をとめて考えよう

 情報を1段階で終わらせないように、知識同士をつなげる作業をする。いろいろなところで得た知識を自分の中で混ぜ合わせ、それを他人に話すと深いものになって忘れない。
 雑学はコミュニケーションのきっかけが作れる。話のきっかけを作るには、披露する知識について知っておかないとできない。点(知識)と点(知識)をつなげて考えることは非常に重要。


◆知るということ

 「無知の知」という言葉を心に留めてほしい。どんなに物知りになっても、必ず上はいるもの。それを忘れて、いい気になってしまうときがあるが、慢心はよくない。「必ず上には上がいる」ということを知り、「自分はそれほど知らないですよ」という謙虚で初心者の気持ちで接してほしい。
 高校時代から30年たったいまも「日々、挑戦」。人はいつでも挑戦できると思っているが、何に挑戦するかを知らないと挑戦自体ができない。知るということは、コミュニケーションなど何事へのきっかけにもなるし、自分の世界を深めていくきっかけにもなる。
 「知らんば始まらん」

 

【MEMO】恵びす湯

 

 佐賀県には銭湯が1軒しかない。絶滅しかかっている中、唐津市に恵びす湯がある。銭湯の数について、たとえば「平成30年度末」などの統計データはあるかもしれないが、いまいくつなのか誰も知らない。足を運び自分で確認することで、初めて生きた知識になる。知識はアップデートしてほしい。
=DATA=
住 所 唐津市大石町2532
電 話 0955(72)4761
営 業 午後5時~同8時半まで(唐津くんち開催期間11月3、4日のみ朝風呂午前7時~同9時まで)
定休日 日曜

 

Q&A

Q.原さんはどういう視点で本を読むの?

A.なぜそういう言葉をつかうのかという視点に重きを置く。たとえば、山口県ではなぜ「フグ」を「ふく」、「ザビエル」を「サビエル」というのか。映画の場合は、この演出はだれがどういう課程で決めたのかなど、裏を想像しながら見るのが好き。


Q.学校の授業でクイズを出すときに気をつけたいことは?

A.大事なことは、最後に答えを聞いた時に、子どもたちが「あー。あれのことね」と納得できるように意識すること。先生は新しい情報を出しすぎて、問題も分からなければ、答えも分からないということになりがち。


Q.学校の授業でクイズを出すコツは?

A.付け足しやかけ算をする。たとえば歴史の小テストでは「初代総理大臣は誰か」と出題されるが、そこに「女好き」や「沢田研二が伊藤博文に似ていると話題になった」など、ジャンルの違う話を持ってこないと、関心のない人の気持ちを引き寄せることはできない。ジャンルを必ずかけ算して問題を作ることを意識した方がいい。
 その前提として、問題を作る側にも関心の幅が必要。切り口は多用で、いろいろな角度から情報を見つめ直し、その話題を足し算してクイズを作る。先生は幅広い意味での教養を身につけてほしい。

 

◆弘道館2とは◆ 幕末佐賀の藩校・弘道館を現代に再現した県の人材育成事業。さまざまな分野で活躍する県内ゆかりの講師を招いて学ぶ。新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から今回、オンライン上で開催された。コーディネーターは元電通の倉成英俊さん=佐賀市出身。問い合わせは事務局、電話0952(40)8820。

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