鎌倉時代、大宰府を攻略すべく長崎・鷹島沖に集結していた約4400隻の元寇船を暴風が襲った。世に言う「神風」である。2度にわたって襲来した元軍は大半の船を失い、日本侵攻を断念したとされる◆後世の人びとが、国難のときに起きると信じた奇跡も、世界に目を向ければ、まったく別の物語になる。同じころ、元軍はベトナムにも攻め入っていた。数で劣るベトナム軍は、入り江に敵の水軍を誘い込んで立ち往生させ、火矢を射かけて壊滅させた。黒澤映画のような知略によって大敗した元軍は、予定していた3度目の日本への遠征をあきらめざるを得なかった…◆新型コロナにしても、昨春の経験から緊急事態宣言で封じ込めができる、と考えるのは神風を信じるようなものかもしれない。すでに再び宣言が出された首都圏では、休日の人出がそれほど減らず、政府の呼びかけは国民に響かない。きのう福岡県が急きょ対象地域に加えられたのは、政権の焦りにも見える◆地方から若い世代を吸い上げ、経済的な豊かさを享受してきた都市のことごとくがウイルスに染まっていく。私たちの住む地域にまだ残っている「安心」こそ、手放してはならない大切な価値だとあらためて気づく◆これ以上、宣言地域は広げないという「最後の船」を、風頼みではなく知略で食い止めなければ。(桑)

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