人が生まれたとき、脳の重さは平均350グラム。缶ジュース1本ほどの体積という。それが1年で3倍になり、最終的に4倍の1400グラムまで育つには20年かかる。ヒトに近いチンパンジーは母親のおなかの中で大人の脳に近い大きさになるのに、人間の脳は生まれ落ちてから大部分がつくられる◆人は未熟なまま、母胎という「楽園」から追放された存在だと、作家の井上ひさしさんは書いている。〈脳がほぼ完成する十三、十四歳までは、この世が彼等の子宮であり、胎内なのだ〉。家庭や学校、周囲の共同体が、人間の精神や人間的行為のできる力を与える責任がある、と◆ことしの新成人が産声を上げた2000年は、西鉄バスジャックなど少年事件が世間を騒がせ、厳罰化が進められた。子どもを大人と同等に扱うようになった節目だったかもしれない◆すでに高校時代から選挙権を持つ、はたちの若者に「大人の仲間入り」の実感は乏しいだろう。コロナ禍で祝宴もない、さびしい門出である。せめて、これまで成長を支えてきた「楽園」が満ち足りたものであったことを願う◆詩人中原中也は20歳のころ、日記に書いた。〈先生は子供を、子供だと想ひ過ぎる。先生よ、おまへとおまへの教へる子供とは大方同じ常識を持つてるんだぞ〉(『140字の文豪たち』)。…返す言葉もない。(桑)

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