〈俎板(まないた)の染むまで薺(なずな)打(うち)はやす〉。長谷川かな女の句にある。けさ台所に、そんな音が弾んだ家庭はどれくらいあったろう。きょうは七草。むかしは「七種(ななくさ)なずな 唐土(もろこし)の鳥が 日本の土地に渡らぬ先に」と唱えながら、かゆに投じる芽や根を刻んだという◆県内の習俗をまとめた佛坂勝男さんの『佐賀歳時十二月』にも、三瀬村(現佐賀市)あたりのはやしことばと紹介されている。唐土の鳥、つまり大陸からの渡り鳥によって農作物に害虫や疫病が流行しないよう願いを込めたのだろう。新型コロナばかりでなく、各地で相次ぐ鳥インフルエンザに厳戒する養鶏農家の胸の内にも重なる◆道ばたの雑草にすぎないセリやナズナを、新年の神聖な食べ物にした古人は大らかである。「献芹(けんきん)」という中国の古い言葉もある。野のセリほどのつまらないものを、と物を贈るときのつつましい言い方で、偉い人に忠義を尽くすことでもある。転じて賄賂の含意も生まれた◆鶏卵業者から農水族議員への「献芹」疑惑が報じられている。家畜の飼育基準を海外並みに厳しくしては経営が成り立たない、という業界の反発が背景にあったとされる◆七草がゆは正月にごちそうを食べすぎて疲れた胃を休めてくれる。その豊かな食材がどんなふうにしてハレの食卓を飾ったか、ひととき箸を止めて見つめ直したい。(桑)

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