世界の多くの選手は新型コロナウイルスの感染再拡大の状況を心配しながら、ワクチンの接種が英国や米国などで始まったことに希望を見いだそうとしているのではないか。1年延期となった東京五輪・パラリンピックはこの夏、果たして開催できるだろうか。

 国際オリンピック委員会(IOC)は再延期しないという。世界での感染が今後、よほど深刻なものとならない限り五輪を開催する決意だ。たとえ無観客でも開催の可能性を模索するとみられる。有力放送権者も同じ考えだといわれる。

 4年を一区切りとする五輪サイクルで、IOCは放送権料とスポンサー契約などにより約6千億円の収入がある。その大半は夏季五輪を開催することで確保している。

 この収入は五輪を構成する各国際競技連盟、206の国内オリンピック委員会、さらに五輪開催都市の大会組織委員会に分配される。分配金はいわば五輪運動という身体の各器官に届く血液だ。

 IOCにはこのメカニズムを動かし続ける責務がある。多くの国際競技連盟は昨年、さまざまな大会が中止に追い込まれ、財務状況が急速に悪化した。その厳しい現実を直視すればなおさらだ。

 IOCが昨年、延期を決定したときは練習すらできなくなった選手と、選手を支援する国内五輪委が次々に延期すべきだと声を上げ、それに突き動かされた面がある。

 しかし、現在はそのような主張は聞こえない。万が一この夏も開催できなければ、五輪の舞台に一度も立つことなく引退の危機に直面する選手もいるだろう。状況が改善するのをじっと待つしかないのは選手も同じだ。

 政府、東京都、組織委による大会予算の組み直し作業が終わった。準備を既に整えながら使用できなくなった仮設施設などがあり、借り上げていた会場の使用契約を延長する費用、さらにコロナ対策費が重くのしかかり、追加支出は2940億円と膨らんだ。

 いくら誰も予想し得なかった事態とはいえ、政府も東京都もこれ以上は公費を投入できないだろう。組織委はチケット収入を900億円と見込んでいるため、無観客もしくはそれに近い小規模な観客となれば赤字のピンチだ。

 さまざまな費目で切り詰めの努力が求められるのは当然だ。五輪の開閉会式では華美な演出はしないと決めた。3月に始まる国内聖火リレーでは著名人の起用を見送ることも視野に入れている。

 8万人を確保する予定だった競技関連のボランティアも縮減の方向となった。どれも賢明な検討だ。

 しかし、ブレーキを強く踏みすぎて開催都市を中心に市民を温かく包み、喜びにあふれた雰囲気が醸し出されないということになれば、それは五輪の理想ではない。それどころか、さまざまな交流の機会が閉ざされれば五輪の価値は損なわれる。

 聖火リレーは各市町村が五輪とつながることを実感できる貴重な機会だ。また、各国の選手団は大会直前に時差調整と練習のため、キャンプ地として全国のホストタウンに滞在する予定だ。各自治体は市民との交流を楽しみにしている。

 その多くは大会予算とは別枠だが、組織委はこうした準備にも適切な目配りをして、市民が五輪精神を実感できるよう温かく見守ってほしい。(共同通信・竹内浩)

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