3月オープンの宿泊施設を前に「肥前浜宿を誰もがあこがれる場所にしたい」と語る富久千代酒造の飯盛直喜社長と妻の理絵さん=鹿島市

 新型コロナウイルスの感染拡大が経済を直撃し、とりわけ経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)な中小企業の屋台骨を揺さぶっている。ピンチをチャンスに変えるにはどんなことが必要なのか。ふるさとへの熱い思いを抱きつつ、自社の強みを生かそうと奮闘を続けている佐賀県内の企業の取り組みを紹介する。

 「生まれ育ったこの肥前浜宿を誰もがあこがれる場所にしたい」-。「鍋島」の看板銘柄で知られる富久千代酒造(鹿島市)の飯盛直喜社長(58)は、ふるさとへの熱い思いをこう口にする。江戸時代から酒造りで栄え、白壁土蔵の酒蔵やかやぶき屋根の家並みが残る肥前浜宿の酒蔵通りに3月、食事メインの宿泊施設「御宿 富久千代」をオープンさせる。

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 重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に指定されている酒蔵通りの旧商家を改装。約200年前の外観はそのままに、現代的な快適さを加えた「和モダン」の上質な空間に仕上げる。妻の理絵さんが施設の代表を務め、星野リゾート(長野県)で経験を積んだスタッフや、三つ星レストランで修業したシェフがもてなし役の中心となる。

 宿泊は1日1組(最大4人)に限定し、1泊2食付きで1人5万円から。2月に先行オープンする施設内のレストラン「草庵 鍋島」は1日限定6人を受け入れる。遠方から通い続けてくれる熱烈な「鍋島」ファンが多いが、近くに宿泊施設や飲食店が少なく、理絵さんは「もっと鹿島を楽しめる場があれば」と語る。コロナ禍で工事が遅れたが、ようやく開業が決まった。

 「鍋島」は2011年、世界的なワイン品評会インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で世界一を獲得。その名を知られるようになったが、道のりは平たんではなかった。東京の販売会に出向いても「九州は焼酎でしょ」と見向きもされなかった時期も。特約店を集め、涙ながらに「一緒に鍋島を育ててほしい」と懇願したこともあった。そんな時、支えてくれたのは家族や社員、地域の仲間たちだった。

 「鍋島」の世界一がきっかけとなり、地域では鹿島酒蔵ツーリズムに力を入れ、多くの観光客を迎えられるようになった。今回の宿泊施設には「若い人の力、地域の力、応援団の力で第2弾の風を吹かせたい」との思いも込める。

 鹿島市出身で「青年団の父」と呼ばれた社会教育家田澤義鋪(よしはる)(1885~1944年)の言葉「故郷に錦を着て帰ることを願う前に、郷土を錦で飾ることを考えよ」を胸に歩みを進める。(志波知佳)

 

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