新型コロナウイルス感染症の流行後初めての年末年始を迎えた。世の中の重苦しさに気持ちもふさぎがちだが、皆で我慢の年越しを実践し新年に明るい展望を開きたい。

 年末年始は家族、父母兄弟、旧友らと共に過ごし、互いに絆を再確認する年1回の大事な機会だ。それを諦めるのは実に切ない。そんな時は「今もし自分が感染していたら」と考えてみてほしい。大事な人たちを守るため、取るべき行動はおのずと決まるはずだ。

 「第3波」の感染拡大が急速な地域では、人員が手薄になる年末年始に特に医療提供体制が逼迫ひっぱくしかねない。そのため専門家らによる政府のコロナ対策分科会は「人々の交流を通じて感染が全国に拡大する」のを防ごうと「静かに過ごす年末年始」を呼び掛けている。

 その内容は、全国に向け「忘年会・新年会は家族、いつもの仲間で。5人以上は控えて」と要請。感染拡大地域には「忘年会・新年会は基本的に見送って」「帰省は延期も含め慎重に検討を」と求めた。我慢ばかりで閉口するだろうが、これら提言には感染状況の分析に基づく根拠があることをきちんと理解したい。

 年末を前にして、東京都の1日の新規感染者数は900人を超えた。都の担当者が「大規模なクラスター(感染者集団)はない。いろんな所で広がった結果」と言うように、感染経路が判明した人たちのうちでは、家庭内が4割前後と最も多く、職場内での感染も目立つ。

 分科会の尾身茂会長は「東京で感染経路不明の6割の多くは飲食店での感染と考えられる」と指摘。そうして市中で感染した人が無自覚のまま家庭や職場にウイルスを持ち込む。これが今の感染拡大の最大の原因だ。このため感染が高止まりしている首都圏をはじめとして、人の移動や接触が増える年末年始を現状のまま迎えては危険、というのが専門家の警鐘だ。

 菅義偉首相は自ら国民に「飲食は原則4人以下で」と呼び掛けながら、一晩に経営者ら15人前後との会食、自民党の二階俊博幹事長らと8人での「忘年会」をはしごして批判された。「5人以上が一律に駄目ではない」(西村康稔経済再生担当相)など周囲の的外れな擁護も火に油を注いだ。

 論点はルール違反と言えるか否かではない。全国民に「行動変容」を求めるリーダーが、日夜多くの人と会食を重ねる自らの生活スタイルは全く変えようとしなかったことが問題だ。国民に「なんだそれでいいのか」と事態を軽く思わせてしまった首相の責任は重い。

 約100年前に大流行したスペイン風邪は日本でも人口の約40%が感染する未曽有の被害が出た。12人の子を持つ歌人与謝野晶子が、次々感染する家族を思って書いた評論が再注目されている。「政府はなぜいち早く、大呉服店、学校、興行物、大工場などの一時的休業を命じなかったのか。そのくせ警視庁は、多人数の集まる場所へ行かぬがよいと警告する。統一と徹底が欠けている」

 行政への不満は今と同じだ。それでも晶子は「子どもたちのため余計に生の欲望が深まっている」として注射だ、薬だと奔走する。そして「子孫の愛より引いて全人類の愛に及ぶ」と家族を守る行動が連帯の輪となり社会を守ると言った。100年を経て晶子と心を重ねる年末年始としたい。(共同通信・古口健二)

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