政府は2021年4月から介護サービス事業所に支払う介護報酬を0・7%増と前回の0・54%を上回る率で引き上げる。

 介護現場は慢性的人手不足に加え、新型コロナウイルス感染拡大による利用者減と対策コストで経営悪化した。超高齢社会に不可欠の社会インフラである介護事業を守るための引き上げだが微増にすぎず、人手不足解消に向けた待遇改善など本質的な改善はなお遠い。

 団塊世代が75歳以上になり始め、介護ニーズが急増する22年へ向けた抜本的改革が先送りされており、政府はいずれ国民に本格的な負担増を求める改革に取り組まざるを得ないだろう。

 介護報酬は原則3年に1度見直す。今回の改定は、介護職員の待遇改善、コロナ対応などを介護報酬でいかに評価するかが焦点だった。

 高齢者施設でのクラスター(感染者集団)発生も相次ぎ、全国に緊急事態宣言が出ていた20年5月には、介護事業所当たりの利用者数が短期入所で前年同月比20・0%減と大きく落ち込むなどした。その後も介護事業は厳しい経営が続いている。

 高齢化で年々高まる介護ニーズに対応してきた介護事業所にとって、想定外の大幅な利用者減は経営基盤を揺るがす。倒産件数も年間で過去最多の見通しだ。介護崩壊を防ぐためには報酬引き上げによる支援は急務だ。

 介護現場は食事や排せつなど利用者と介護する職員が3密(密閉、密集、密接)になるのが避けられない。感染すれば重症化しやい高齢者に対応する職員への負荷は大きい。これら人手不足の中で奮闘する介護職員については、全産業平均に比べ月額9万円程度低い処遇を着実に改善したい。

 00年にスタートした介護保険制度は給付費の財源を、国・自治体の税金、40歳以上の人が支払う保険料、利用者の自己負担―の三つで賄う。00年には149万人だった介護サービス利用者は、19年に487万人に増加。総費用も00年度の3兆6千億円から19年度には11兆7千億円(予算ベース)へと、いずれも3倍に膨張した。

 22年以降は高齢化が急速に進み、自己負担のほかは保険料と税金で成り立つ介護保険の財政は逼迫(ひっぱく)しかねない状況になる。25年度には介護職員が約34万人不足するとの推計もある。人手の確保とそのための財源は今や待ったなしの課題だ。

 制度導入当初は所得水準に関係なく1割だった利用者の自己負担は、財政改善のため経済力に応じ2、3割負担も導入された。65歳以上の月額保険料は現在全国平均5869円で、25年度には7200円になる見通しだ。高齢者に強いる負担は限界にきている。

 高齢化のピークに対処するには、2割負担の対象拡大、サービスの縮小、国の税金投入などの検討が近い将来避けられないだろう。保険料の支払い開始年齢を現在の「40歳」から「20歳」まで引き下げる改革案もずっとくすぶり続けてきた。

 しかし政府は今回、痛みを伴う社会保障改革は75歳以上の医療費窓口負担2割の対象拡大を優先し、介護については早々に本格議論を次回改定まで先送りした。今後2、3年に何も手を打たず、介護保険財政が改善に向かうことはない。政府は逃げず、ごまかさず、国民に厳しい改革への理解、協力を求める努力を今から始めるべきだ。(共同通信・古口健二)

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