唐津市と玄海町が発行した「いきかたノート」

 新型コロナウイルスの感染拡大で揺れ続けた一年が終わろうとしている。感染や感染予防への取り組みで暮らしのさまざまな「日常」が変わり、自宅で過ごす時間が増えてこれまでの人生を見つめ直し、これからの生き方をじっくり考える人も多いのではないだろうか。唐津市と東松浦郡玄海町が発行した「いきかたノート」も、「当たり前が当たり前でなくなる」時が突然やってくる可能性を踏まえ、自分らしく生きる意味を考える大切さを問い掛けている。

 「いきかたノート」は在宅医療と介護の連携を推進しようと、主には老後の生き方、人生観を考える冊子である。両市町の医師や看護師、ケアマネジャー、作業療法士ら多職種のメンバーでつくる委員会が1年がかりで作った。

 背景には人口減少、超高齢化社会があり、望まない延命治療といった問題も絡んでいる。厚生労働省も、人生の終末期にどんな医療やケアを希望するかについて、日ごろから家族や医療関係者と話し合いを重ねる「人生会議」の普及に努めている。いきかたノートはそれにつながる試みで、住み慣れた地域で最期まで暮らす、そのために医療と介護の連携をスムーズにするとともに、自己決定を支える狙いがある。

 ただ、いわゆる人生の終わりに備える「終活」のエンディングノートとはやや異なる。医療、介護と言えば、多くは高齢者に当てはまるだろうが、年齢に関係ない全世代を意識している。健康であれば普段、病気や事故などで自分が意思表示できなくなる「もしものとき」を想像することは容易ではない。だが、誰でもいつでも生命に関わる病気やけがをする可能性はある。健康であっても事故や災害に巻き込まれたり、新型コロナウイルスのような感染症に見舞われたりするリスクも同じようにある。「もしものとき」に、既に自己決定や意思を伝えられない状態になっている事例が多いといわれているだけに、元気であっても、若くても、あらためて備えの必要性を意識したい。

 もちろん、「いきかたノート」の記入は義務ではなく、ましてや強要されるものではない。行政も希望者に無料で配る方式を取っている。あくまで自分らしく生きる環境へ向けた機運づくりの一つである。最期の迎え方ではなく、どう生きていくかを考えることが肝要だ。11月から配布を始めて住民に浸透するのはこれからとなる。機運が高まっていけば、支える体制の整備も欠かせない。

 家族や親族とて、どのような生き方を望んでいるかをきちんと把握しているとは言い難い。このノートを知ったことを機に、話し合うことだけでもいい。お互いの価値観を共有できることが大きな一歩となる。(辻村圭介)

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