確認された新規感染について説明する佐賀県の会見=7月、佐賀県庁

 感染した事実が、知らないうちに出回っていた。

 全国的に新型コロナウイルスの感染が再拡大し、佐賀県内にも「第2波」が押し寄せていた夏。県内の飲食店で働く50代女性は、PCR検査で陽性と判定された。結果は、濃厚接触の可能性がある家族や従業員以外には伝えていない。「それなのに、どこからどう漏れたんだろう」

 先に発症した友人から促されて受けた検査で判明した。発熱があり、香水の匂いやみそ汁の味が分からなくなった。入院し、嗅覚や味覚の障害に苦しんでいる最中、うわさが女性を精神的に追い詰めていった。

 〈コロナが出たから、店が入っているビルが封鎖された〉〈怖いけど、会いに行ってみようかな〉

 ビル内の店舗は夏の初めごろから、新型コロナの影響で客足が遠のき、いくつかは実際に休業していた。「知らないうちに『コロナビル』と呼ばれていたみたい。気持ちが落ち込み、人間不信になった」。女性はこう振り返り、目線を落とした。

 ▽SNSで拡散

 感染した当事者に対する誹謗(ひぼう)中傷は、全国的にも後を絶たない。京都府では4月、住宅の壁などに個人名が記された複数の張り紙が見つかった。会員制交流サイト(SNS)を通じた中傷やデマの広がりもあり、8月にクラスター(感染者集団)が発生した島根県の高校では「マスクも着けずにコロナをばらまいている」という書き込みが写真とともに拡散された。

 佐賀県内で感染が確認された人の周辺でも、同じようなことが起きた。自宅や勤務先の会社の周辺をうろつかれ、従業員が中傷を受けたり、感染した人の自宅が小学生から「ここはコロナの家」などと言われたりするケースが発生。ある感染した人は「自殺した」といううわさが広がった。

 ▽「心配するな」

 〈どこかに遊びに行ったから感染したんだろう〉。飲食店を営む50代男性の感染は、知らないうちに同業者や客の間で広まった。

 入院直後には平熱に戻ったが〈年だから重症になっているらしい〉と尾ひれが付いていた。感染への不安が広がる中で、男性は「自身や店に対する誹謗や中傷は覚悟していた」と話す。

 ただ、体調を心配して店を訪ねてくれる客は多かった。「心配するな。お前は何も悪くない」。そんな言葉を掛けてくれる知人もいた。「こんなときに、人のつながりのありがたさを感じるんですね」

 11月以降、感染は「第3波」が押し寄せ、さらに広がりを見せる。国会では感染した国会議員らが中心になり、議員立法で感染した人たちに対する不当な差別を禁止する法案をまとめている。自治体レベルでも、東京都や茨城、岐阜、沖縄各県などが条例を制定しており、各地で動きがある。

 社会の閉塞へいそく感や感染への恐れが生み出す「コロナ差別」は、感染した人に二重の苦しみを与える。「自分が感染したとき、こんな言葉を掛けられたらどう感じるか。自分事として捉えてほしい」。感染症が回復した女性は切に願う。

   ◇   ◇

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴って社会問題化する感染した人や医療従事者らへの差別や誹謗ひぼう中傷。その実態に迫りながら、差別を生まないための在り方を考える。3回を予定。

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