有明海再生のため、「開門調査」を訴える平方宣清さん=藤津郡太良町の道越漁港

 「国が判決を守らないとは思いもしなかった」―。国営諫早湾干拓事業(長崎県)の堤防排水門の開門を命じた福岡高裁の判決から6日で10年になる。判決は確定したものの国による開門調査は実現せず、その後に別の訴訟で「非開門」の確定判決が出た。法廷闘争は今なお続いており、漁業者側は開門も選択肢に入れた和解協議入りを求めるが、国は「開門せずに漁業振興基金での和解」を譲らず、両者の溝は深いままだ。

 「有明海で捕れていたシャコやクチゾコは激減した。貝類もほとんどいなくなった」。藤津郡太良町の漁業者、平方宣清さん(68)は、いまの海の状況を嘆いた。かつて冬場に大量の水揚げがあった二枚貝のタイラギは11月、9季連続の休漁が決まった。調査の結果、成貝はゼロだった。

 ▽国の対応批判

 1997年の堤防閉め切り前後から、平方さんが生計を立てていたタイラギをはじめ、有明海で不漁が深刻化した。漁業者は2002年、堤防工事の差し止めを求めて国を提訴。一連の訴訟で福岡高裁は10年12月、漁業者の訴えを認めて国に対して開門を命じた。当時の民主党政権は上告せず21日、判決が確定した。

 開門は実行されると思われたが、国は干拓地の営農者らの反対を理由に引き延ばす。営農者らが起こした別の訴訟で、長崎地裁は開門の差し止めを命じた。「開門」と「非開門」の相反する司法判断が並立する形になり、国は17年、「開門しない」方針を表明。開門しない代わりに基金設立を解決策として提示した。

 「開門の判決が確定したときは、守られないとは思いもしなかった。法律違反もはなはだしい」。平方さんは国の対応を痛烈に批判する。

 ▽コロナで苦境に

 農林水産省は05年以降、有明海異変を受け再生事業に取り組んでいるが、漁業者は効果を疑問視する。平方さんは「開門しかない。消えた潮流が元に戻れば、海況は改善するはずだ」と力を込める。

 菅義偉新内閣が9月に発足したが、国が開門にかじを切る兆しはない。野上浩太郎農相は新型コロナウイルスの感染状況を理由に、就任から2カ月以上が経過しても現場を訪れておらず、「できるだけ早期に現地を訪問したい」と述べるにとどめている。

 新型コロナの混乱は、不安定な側面をはらむ漁業者の暮らしにも影を落とした。今年は夏ごろまでカニやクラゲは値が付かず、収入につながらなかったという。「漁業者は苦境に立たされている。このままなし崩し的に海が衰退していくのを見ていられない」。こみ上げる怒りや悔しさを抱え、平方さんは法廷闘争を続ける。

 開門を強制しないよう国が求めた請求異議訴訟は福岡高裁で係属している。次回の弁論は7日に開かれる。(中島幸毅)

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