鶏卵生産大手「アキタフーズ」(広島県福山市)グループの元代表(87)が、鶏卵業界に便宜を図ってもらう目的で、元農相の吉川貴盛衆院議員(70)=自民=に対し、現金を提供した疑いがあることが1日、関係者への取材で分かった。東京地検特捜部も把握しており、農林水産省やアキタ社の関係者を事情聴取するなどして、捜査を進めているもようだ。

 元代表は、他の複数の農水族議員らにも現金を渡した疑いがある。

 吉川氏は11月、共同通信の取材に現金受領を否定した上で「パーティー券を購入してもらったことはあり、政治資金収支報告書に記載した」と述べた。アキタ社の岡田大介社長は「何も知らない」と話した。

 関係者によると、元代表は業界団体の役員を務め、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア(AW)」の国際的な基準や、鶏卵価格が下がった際に生産者の損失を補塡ほてんする「鶏卵生産者経営安定対策事業」を巡り、政治家や農水省に積極的に働き掛けをしていた。

 AWでは、業界側が2018年11月、農相だった吉川氏に日本の実情に応じた基準作りを要請。安定対策事業に関しては、業界側の求めで本年度から補塡対象を大規模生産者に広げたり、需給調整のために鶏を処分した業者への奨励金を増額したりする変更が行われた。

 吉川氏は北海道2区選出。経済産業副大臣や農水副大臣を経て、18年10月~19年9月に農相を務めた。元代表とは長年懇意で農相在任中も面会を重ね、現金の提供を受けた可能性がある。

 アキタ社は1966年に設立。広島のほか、千葉や大阪にも拠点を持つ業界大手で、「きよら」ブランドで知られる。

 昨年7月の参院選広島選挙区を巡る河井克行元法相夫妻の買収事件の関係先として、今年7月に検察当局から家宅捜索を受けた。所有する豪華クルーズ船で元農相の西川公也内閣官房参与や本川一善・元農水事務次官らを接待したことも明らかになっている。

政治家に要望、業界一丸

 元農相の吉川貴盛衆院議員に対する現金提供の疑いが浮上した鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループの元代表を中心に、生産者側はより良い環境での飼育を目指すアニマルウェルフェア(AW)の導入や、鶏卵価格低迷時の支援(安定対策)事業を巡り政治家や行政への働き掛けを強めていた。いずれも経営に直結する問題で、業界に有利な見直しが実現したケースもあった。

 AWは家畜を工業製品のように扱うことへの批判から、英国で生まれた考え方。新鮮な水や飼料の確保、適切な飼養環境の整備といった「五つの自由」が指針となっている。

?国際獣疫事務局(OIE、本部パリ)が基準の策定を進めているが、「巣箱」「止まり木」の設置を義務化した2018年の2次案に日本の鶏卵業界が「日本の実情に合わない」などと猛反発。農林水産省を通じて要件緩和を求め、19年の3次案では、いずれも義務化は見送られた。設備投資によるコスト増にもつながるとして、生産者側には根強い反対意見があった。

 3次案とほぼ同内容の5次案が20年11月に公表され、来年5月にOIEの総会で採択される可能性もある。

 安定対策事業は、鶏卵の価格下落時に農水省が定めた基準との差額の9割を補てんするほか、過剰供給を抑えるため、鶏の処分後、一定期間鶏舎を空けた生産者に奨励金を支払う仕組み。財源は国と生産者が負担する。20年度からは奨励金の増額など生産者に有利となるよう見直された。

 日本養鶏協会(東京)の関係者は、この見直しについて「業界にとって良い事業になった」と評価。アキタフーズグループの元代表が、政治家に働き掛けて実現させた功労者だと話した。

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