新型コロナウイルスとSSP杯県高校生スポーツ大会をめぐる佐賀新聞の報道を論点に意見が交わされた報道と読者委員会=17日、佐賀新聞社

 佐賀新聞社の報道の在り方を議論する第三者機関「報道と読者委員会」の2020年度第1回会合では、新型コロナウイルスや県高校総体などの代替大会の報道について論議した。委員は、感染者の情報をどこまで報じるべきかといった課題や、代替大会での動画やSNSを使った取り組みについて意見を交わした。要旨を採録する。

 

 上野委員 新型コロナは現在も進行している事態で報道は難しいと思う。その中で伝えてほしいことが二つある。一つはコロナ禍の中でAIの開発スピードが加速するとの報道があったが、それが身近な生活レベルでどのような意味があるのか紹介してほしい。

 もう一つはこれまで潜在的にあった問題にあらためて注目してほしい。フードバンクの関係者から、当初は食品のリクエストにお菓子があっても、困窮が進むと米や麺類に変わると聞いた。コロナ以前から続く貧困などの問題が、現在どうなっているかを伝えてほしい。

 竹下委員 県内で初感染者が出たときに、どのような報道がなされるか注目していた。佐賀市内の学生だったが、狭い世界なのでバイト先などの個人情報がすぐに出回った。小中学校再開の直前のことで、別のページには「残念」などの見出しもあった。感染した本人もつらいと思うし、心が痛む。

 県の取り組みの紹介はよくまとまっていた。施策から漏れている人に関しても生の声を拾い上げて丁寧に取材していた。また、暗いニュースが多い中で、アスリートや著名人の前向きになれるメッセージには励まされた。先が見えない状況の中で、明るい話題は今後も紹介してもらいたい。

 中島委員 相談窓口やコールセンターの電話番号など、多くの情報が表にまとめてあり、分かりやすく役に立った。ただ、中止・延期のイベントが多すぎるときは、いつのことなのか分かりにくい。カレンダー式などの工夫が必要だ。

 飲食業や旅行業などの経済活動の報道は多かったが、学校のことは少なかった印象だ。修学旅行の中止に加え、運動会は縮小や保護者の応援制限があった。教職員が毎日学校の消毒にあたったことや小学生のストレスなど、学校の現状をもっと取り上げてほしかった。

 大野委員 紙面を見て、多様な人の視点を取り上げるとともに、見やすい紙面作りの工夫を感じた。

 不安なときに知りたいのは実際はどうなのかということと、ほかの人はどう思っているかということ。会えない家族や友人らに思いを伝えるメッセージ企画「あなたへ」で、例えば祖母から孫への思いなど小さな声を拾い上げることで、だれもが自分のこととして考えることができた。

 文字だけで表現せず、表や図を多用したことで一目で理解できた。バルーン大会や唐津くんちは中止になったが、写真を大きく使ったラッピング紙面は粋だと思った。

 牟田委員 事実の報道は必要とはいえ、感染した人の男女の別や年代、住んでいる市町などの報道は必要だろうか。個人の特定につながりかねない。不安をあおるより、入院した人が何日ぐらいで退院できるかなど、安心して活動できるような情報がほしい。

 個人的にはフェイスガードに興味がある。形の違いと使い勝手などをマスクと比較してほしい。マスクでは表情が分からないし、会話も聞き取りづらい。

 大野委員 感染者の情報に関して報道機関は、感染拡大防止に向けて正確な情報をできる限り出すべきだ。ただ、当然のことながら個人攻撃やパニックを防ぐことは必要だ。

 竹下委員 個人をさらすことになってはならないことが大前提で、その上で必要な情報を出すことが大切だ。報道することで不必要な詮索やパニックを抑えることにもつながる。

 澤野常務・編集本部長 県もプライバシーに配慮した発表をしている。知る権利と個人のプライバシーの両立に難しさはあるが、今後も感染抑止に必要な情報はきめ細かく報道していく。

 

 上野委員 SSP杯報道には二つの意味があった。この鬱々(うつうつ)たる状況の中で、若い力の躍動が写真と記事によって伝えられることで、若さのもつ意味や素晴らしさを再認識させられた。もう一つは、全国大会や高校総体の記事は「チャンピオンシップ」に傾斜した書き方になりがちだが、今回は「完全燃焼」という表現が繰り返し出てきた。スポーツ本来がもっている意味も再認識できた。

 竹下委員 「結果がすべてじゃない」という書き方が良かった。優勝した選手だけでなく、途中で負けた選手についても、その思いや頑張ってきたことにスポットライトを当てて取材していた。スポーツが子どもたちの内面を育てるという点にまで踏み込み、単なるスポーツ大会じゃない切り取り方をしたことで、いい仕上がりになっていた。動画中継の取り組みは非常にいいチャレンジ。決勝だけでなく1回戦から細かく中継したことで、救われた生徒や保護者もいたのでは。

 中島委員 「全力取材」ということに尽きる。昨年の総文祭の熱気がよみがえった。佐賀新聞の「応援しよう」という思いが紙面から伝わった。大会に出られない生徒の声を取り上げた記事は、読んで感動した。子どもたちの悔しい思い、残念な思いをもっと伝えてもよかったのではと思う。

 大野委員 動画とツイッターという新たな試みをした。テレビの生中継には相当の機材が必要だが、技術の進歩で安価にできるようになった。「動画はテレビ」ではなくなった。記者の数の多い佐賀新聞の強みになる。SNSは個人と個人とをつなぐ。記者が名前を出してつぶやいたことに反応した人は、その記者のファンになり、記者を通して佐賀新聞のファンにもなる。より身近なメディア、県民とともにあることを目指すのはいいチャレンジだ。

 牟田委員 個人的には勉強のために部活動を引退し、仲間の応援に来ていた弓道の女子生徒の記事が印象的だった。つらかったと思うし、そういう人はもっといたと思う。長い人生の中で、こういうことを乗り越えていかなければいけないと学んだのではないか。

 中島委員 高校と同じように、県の中体連もなくなった。中学生についても取り上げてほしかった。

 大野委員 「SSPって何の略?」と知人から聞かれた。「SAGAスポーツピラミッド」(スポーツ振興を目指す県の構想)という言葉の説明を、適宜入れていれば親切だった。

 中尾社長 今は「これは新聞社の仕事、これはテレビ局の仕事」というのはない。メディアがそれだけ変化している。「動画も、SNSも」というご指摘をいただいたことは心強い。

 

■新型コロナ

 新型コロナウイルスは前回3月の報道と読者委員会以降、佐賀県内でも感染が拡大した。「正しく恐れ、防ぐ」というスタンスで報じている。日々の感染状況や行政の支援策といった「現象面」の取材に追われた側面があるが、実像に迫れるように多面的な報道を心掛けてきた。

 新規の感染者情報は読者の関心が高く、公式ウェブサイトやSNSでの速報態勢を取った。人権などさまざまな側面で配慮が必要になる情報でもあり、基本的には県の発表に基づいて報じている。

 3月下旬から紙面を通じて、会いたくても会えない家族らに思いを伝えてもらう企画「あなたへ」を掲載した。感染が広がった4月以降は「コロナ禍の現場から」と題した企画を展開し、県内の「今」の記録に努めた。

 7月には医療現場の関係者や学識者らを招いた「紙上フォーラム」を実施し、新型コロナとの向き合い方や今後の方向性を探った。

 感染症の専門医へのインタビューも複数回掲載した。新しい取り組みとしてウェブアンケートも実施し、読者の考え方を探った。

 分かりやすい紙面作りにも気を配り、記事を補うように、できるだけグラフィックスや表を付けた。

 コロナ禍は暮らしに大きな変化をもたらし、社会のさまざまな課題も浮き彫りにしている。これからどのような地域社会を目指せばいいのか、読者が必要とする情報をしっかりと見極め、的確に報じていきたい。

 

■SSP杯

 「SSP杯佐賀県高校スポーツ大会」は、新型コロナウイルスの影響で中止になった県高校総体と夏の高校野球佐賀大会の代替として約2カ月間開かれ、31競技33種目に約8000人が参加した。開幕前からスポーツ面だけでなく、1面や社会面、特集面を使って重点報道した。

 5月中旬の県総体中止発表直後、高校生を対象に緊急ウェブアンケートを実施し、そこで寄せられた約200人の声を報道の参考にした。事前企画では、全国での活躍が期待された各競技の有力選手だけでなく、部活動に打ち込んできた「普通の高校生」に話を聞いた。進学などを見据えて大会出場を見送った生徒についても、部活動の「引退式」や仲間を応援する様子を伝えた。

 大会期間中は、スポーツ面を最大4ページ使い、勝ち上がったチームや選手だけでなく、初戦で敗れた選手の声なども拾い、熱戦の様子を伝える写真グラフも展開した。甲子園大会が中止になった野球に関しても、例年通りに事前のチーム紹介から手厚く報じた。

 新型コロナの感染予防のために無観客開催になったバレーボール、卓球などについては、県とともにオンライン配信に取り組み、視聴回数は約40万回に上った。各取材記者はツイッターのアカウントを登録して試合結果や現場の様子を発信し、紙面で取り上げられなかった写真は「ウェブ写真館」で公開した。異例の夏となった高校生を少しでも後押しできていればと思う。

 

■まとめ 編集局長 大隈知彦

 未経験のテーマ試行錯誤

 社会全体が新型コロナウイルスの対応に追われている。行政、医療、教育など各分野で模索が続いているが、報道もこれまでに経験のない取材テーマを前にして、何をどう伝えればいいのか、試行錯誤しながら取り組んできた。

 報道に当たっては冷静な判断、行動につなげ、危機を乗り越えていこうという思いを基本に据えている。県内の感染状況については正確な情報発信に留意するとともに、感染予防につながる情報や市民生活、地域経済への影響など多角的な取材に努めた。

 委員からは「もっと生の声を拾い上げてほしい」「学校をはじめ、苦慮する現場の取材に力を入れて」などの指摘を受けた。第3波とみられる感染拡大の中、コロナ報道は長丁場の重要課題になる。こぼれ落ちている分野がないか、点検をしながら「コロナ禍の佐賀」を記録し、今後に生きる記事を届けていきたい。

 SSP杯については動画のライブ配信や記者のSNS活用など、従来の新聞報道にはない新たな試みを取り入れた。おおむね好評を得たと受け止めているが、これからもスキルを高めながら多様な報道のあり方を探っていきたい。

 佐賀新聞は地域に根ざしたメディアとして、日ごろから県内スポーツを最もカバーしているという自負はある。それは地方紙の大切な役割であり、生命線だとも思っている。まだ不十分な面はあるが、今後も充実を図り、若い世代が躍動する姿を県民と共有できるように努めたいと思う。

 

■第9期委員(順不同)

牟田清敬氏(座長・弁護士)

上野景三氏(西九州大学教授)

大野博之氏(ユニカレさが代表理事)

竹下真由氏(竹下製菓社長)

中島安行氏(玄海町教育長)

 

 【佐賀新聞社の出席者】中尾清一郎社長▽澤野善文常務・編集本部長▽大隈知彦編集局長▽森本貴彦メディア局長▽井上武報道部長▽中野星次コンテンツ部長▽山田幸徳システム編集部長▽林大介報道部デスク▽古川浩司報道部デスク▽杉原孝幸報道部編集総務

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