女性スポーツ選手が性的な意図で写真を撮影されたり、画像が拡散されたりする被害が拡大し、日本オリンピック委員会(JOC)が対策に乗り出したことに対し、佐賀県内のスポーツ関係者も動向を注視している。競技会場で不適切な撮影をする人に警察が介入するケースも発生しているが、規制には限界があるためだ。選手を守るにはどうすればいいのか。競技団体や指導者は頭を悩ませている。
「女子選手になると、急にカメラを構える人がいる」。県内の高校で競泳を指導する男性教諭は、不審な姿を何度も見たという。県内の大会では競技ごとに撮影を申請制にするなどの対応を取っているが、いまはスマートフォンでも簡単に撮影できる。新体操の大会ではかばんにカメラを忍ばせる人もおり、指導者の一人は「いたちごっこ。対応には限界がある」と話す。
2016年6月の県高校総体では、佐賀市の陸上競技場のスタンドから隣の屋外水泳場にいる女子選手の水着姿を撮影するなどしていた男が、建造物不退去の疑いで現行犯逮捕された。無許可でビデオ撮影を続け、再三にわたる退去要請を拒否したという。
陸上ではセパレートタイプのユニホームを選ぶ人もおり、新体操などでは体のラインが出る衣装を着用することもある。毎日の練習で努力する生徒を見ている男性教諭は「教育やスポーツの現場が、性的な好奇心の犠牲になってはならない」と危機感を口にする。
県高体連の堤啓剛理事長は「選手が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境をつくることが必要」と強調。被害防止のためには、撮影を許可制にしたり、撮影区域を制限したりした上で、会場を回ってチェックするしかないという。
JOCは8月以降、選手の環境を守るための対策を検討し、関係機関と連携して対策に乗り出すことを示している。トップ選手だけでなく、中高生などにも被害が及ぶ現状を踏まえ、日本スポーツ協会や全国高校体育連盟などとも協力していく考えだ。
県弁護士会人権擁護委員会の原口侑委員長は、盗撮自体は県迷惑防止条例違反に当たると指摘する一方、「胸部を衣服の上からズーム撮影し、それが違反に該当するかとなると難しい」という。法的な規制に関しては表現の自由などとの兼ね合いもあり、「慎重な議論が必要」と話す。
24年には県内で国民スポーツ大会・全国障害者スポーツ大会が開かれ、多くの観客が訪れる。保護者や選手仲間の撮影と性的な意図での撮影を見分けるのは難しく、県スポーツ協会の川﨑真澄常務理事は「競技団体から相談があれば、注意を促していく必要がある」と語る。全国的な動きを注視していく考えだ。(小部亮介)