慌ただしいくんち料理の準備ではいつもメニューを書き留めておく。「今年は寂しい気持ち」と話す三根純子さん=唐津市呉服町

三根さんの自宅に並んだ昨年のくんち料理(提供)

 くんちの3日間、市中心部の多くの家庭では、広間にアラ炊きや大皿料理などのごちそうが並ぶ。親戚や友人、お世話になった人々をもてなし、曳き子は連れだって縁のある家々を巡る。どの家にもエプロン姿でせわしく台所と広間を行き来する女性たちがいる。曳山(ひきやま)巡行が中止になった今年は、この光景も消える。

 いつもなら準備で忙しいはずの10月が静かに過ぎ去った。「くんちに向けて体温が上がっているからか、毎年、今の時期も半袖なんですよ。でも今年はなんか肌寒くてね」。呉服町の三根純子さん(44)は毎年の“お勤め”から解放されてほっとする反面、「やっぱり寂しい」とこぼす。

 ▼400人分手作り

 三根さんは市中心部から離れた旧浜玉町で育ちながらも「曳山(やま)があるところに嫁ぎたいと思っていた」という曳山好き。願いかなって約20年前に呉服町の電器店の夫と結ばれた。今では巡行を見るのもままならないが「くんちに関われることがうれしい」という。

 グラタンやローストビーフ、唐揚げにデザートのケーキ、そして母親の慶子さん(73)がこしらえる自家製みそを使った名物「みそうどん」。三根家はすべて手作りで、400人分を用意する。期間中は入れ替わり立ち替わり客が2階の広間へ向かう。

 こうしたもてなしの空間は、新型コロナウイルス対策で避けるべき密閉、密集、密接の「3密」に重なる。さらに唐津では「正月に帰省しなくても、くんちには帰る」と言われるほどで、観光客も相まって不特定多数の人々が交わる。酒が回れば「エンヤ、ヨイサ」の掛け声が家々からも聞こえてくる。感染リスクは高まる。

 「お店じゃないからフェイスシールドとか仕切りを付けてやるわけにもいかない。飲食ができるのか、心配ですね」。来年の巡行実施を強く願いながらも、例年通りに食事を囲む難しさを三根さんは感じている。

 ▼家族だけでお祝い

 曳山のない坊主町の野﨑きくみさん(53)。巡行路近くの自宅で、「曳き込み」の順番を待つ曳き子たちを迎え入れてきた。幼い頃から平野町の曳き子で町の役員も務めた夫と町への感謝を形にしてきた。8月に中止の決定を聞く前は、新型コロナ対策を見据えて頭を悩ませていた。

 カップずしや串刺しのおかず、1人ずつのワンプレート。考えたメニューはいずれも手間暇がかかる。巡行中止の決定に正直ほっとしたという。「もし感染者が出たら、くんちを思い出したくない人が出てくるかもしれない」

 酒を酌み交わす場がない祭りは、曳山巡行のないくんちに似て寂しい。だが今は、気兼ねなく、誰もが安心して楽しめる以前の姿に戻る見通しはない。「1年間、無事に過ごせたことに感謝するのもくんち」と野﨑さん。巡行のない3日間、家族だけでお祝いしようと思っている。(横田千晶)

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