ベーシックインカムの利点と課題

 菅義偉首相のブレーン、竹中平蔵慶応大名誉教授が唱える現金給付策「ベーシックインカム(BI)」が波紋を広げている。欧州では実験的に導入したり、是非を問う国民投票で否決されたりして具体的な議論が進む。竹中氏の提案は1人当たり月7万円支給のため「とても生活できない」と危惧の声も。拙速さは否めず、国内での検討は未知数だ。

 ▽究極

 「5年、10年たつと世界の多くの国が議論している。究極のセーフティーネット(安全網)だ」。菅首相の誕生後の9月、BS番組でBI案の公平さをアピールした竹中氏。規制緩和を推し進め、結果的に格差拡大を招いたと批判された小泉純一郎元首相の右腕として入閣した経験もあることから、竹中氏の発言で一気に施策への注目が集まった。

 BIは、政府が国民全員に、生活に最低限必要な現金を一律で配る施策。年金や生活保護といった社会保障制度を統合し簡素化することで、行政コストを減らせるとの見方や、新型コロナウイルス禍のような予期せぬ収入減にも対応できるとの意見がある。

 一方で「究極のばらまき」との批判も。課題の一つは財源で、月7万円案なら年間100兆円を超える費用がかかる。税金や保険料で賄う2018年度の社会保障給付費は約121兆円で、8割以上を占める計算だ。

 ▽機運

 海外では社会実験の例もある。フィンランドは2017~18年、国家レベルでは世界で初めてBIを実験的に導入。生活への満足度が高まったとの分析がある。カナダでも数千人規模で社会実験を実施。スイスでは16年、導入するかどうかを国民投票にかけたが、8割近くが反対だった。

 日本国内では野党の一部で導入を求める声があるが、政府内で検討に向けた目立った動きはない。ある民間エコノミストの一人は「政策の実現性はない」と切り捨てる。

 ▽修正

 竹中氏案の金額にも疑問の声が上がる。生活困窮者らを支援するNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典理事は「高齢者や障害者、難病患者など弱い立場の人の生活を脅かす危険な提案だ」と手厳しい。

 高齢者施設の入居費や介護サービスの料金、病気の治療代を月7万円で賄うことは難しいとの指摘だ。こうした意見を受け、竹中氏は共同通信のインタビューで「困窮している人に手厚くする」と当初案を修正した。

 竹中氏は8月に発行した著書で、BI導入は「年金や生活保護などの社会保障の廃止」が条件と言及した。これに対し藤田氏は、生活保護のケースワーカーや介護保険のケアマネジャーがいなくなる事態を懸念。「『現金を配って終わり』では、支援が必要な人に不可欠なケアが行き届かなくなる」と語った。

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