日銀は、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)の実証実験を2021年度に始めると表明した。「デジタル円」の発行は国民の日々の生活はもちろん、企業活動や現存するさまざまな民間決済手段に大きな影響を及ぼす。日銀と政府は理解浸透のための情報開示に努めてもらいたい。

 デジタル通貨は電子データの形で通貨として利用可能なものの総称で、ICカードに搭載された電子マネーやビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)も含まれる。スマートフォンなどを使って簡単に支払いや送金ができるのが特徴だ。

 その中でも国の法定通貨として発行されるのがCBDCで、現金と同様にあらゆる支払いに使えることを想定している。

 このCBDCについて日銀は、実現可能性を探る実証実験を来年度の早い時期に始めると発表した。「現時点で発行計画はない」と強調するが、将来の導入を想定して準備を加速する狙いだ。

 実験は3段階で、まず日銀の中でシステムを組み「発行」などの基本的な仕組みを確認。順を追って実際的な検証を進め、最終段階では消費者や民間企業が加わったテストを想定する。

 日米欧の主要国でCBDCの発行を決めたところはまだないが、それぞれが実現を念頭に検討作業を加速させている。欧州中央銀行(ECB)は今月、デジタル通貨発行の是非を21年半ばまでに判断すると表明した。

 主要国にCBDC導入を迫る大きな契機となったのが、昨年6月に米フェイスブック(FB)が発表したデジタル通貨「リブラ」の発行構想だ。

 世界で20億人以上が利用するFBが安価に送金できるデジタル通貨を発行すれば、正規の通貨を脅かす事態となりかねないため、現在は各当局が「待った」をかけて発行できない状態にある。

 ただ、リブラが突き付けた課題は真剣に受け止めたい。それは貧困などで銀行口座を持てない世界の人々への安価な決済・送金手段の提供である。CBDCの導入検討と並行して主要国当局は回答を示す必要があろう。

 CBDC発行へ主要国を急がせているもう一つの重要な要因が中国だ。中国はCBDCで先行しており、中国人民銀行(中央銀行)と連携した広東省深圳市は今月、試験運用の一環として「デジタル人民元」の市民への配布を始めた。

 実用化へ作業を加速させていると考えて間違いない。CBDCの形態や機能を巡って主要国はまだ模索段階にある。先んじて中国にCBDCの「標準型」を握られる事態を避けるためにも、日本をはじめ各国は作業を急がねばならない。

 日米欧が前傾姿勢を強めるCBDCの発行だが克服すべき課題は多い。

 まず第一は安全性・セキュリティーの確保だ。通貨である以上は当然であり、サイバー攻撃で盗まれたり停電で消えたりしない強靱(きょうじん)さが求められる。

 プライバシーや匿名性をどう守るかも重要な論点である。デジタル化で利用者情報が漏れやすくなる恐れがあるし、現金決済と同等の匿名性確保は困難とみられている。CBDC導入に際しては国民的な議論が必要だ。

 政府は今年の骨太方針に日銀によるCBDC検討を明記した。デジタル強化を掲げる菅政権としても導入への環境整備を怠らないでもらいたい。(共同通信・高橋潤)

このエントリーをはてなブックマークに追加