私たち佐賀人のアイデンティティーを探る1万年の旅へといざなう特別展「THIS IS SAGA」が、佐賀市で開かれている。佐賀県立博物館の開館50周年を記念する企画で、タイトルからは「これぞ、佐賀」を示すという意気込みと自信が伝わってくる。

 まず、目を引くのはその展示物の華やかさ。国宝「肥前国風土記」の佐賀での公開は、実に40年ぶり。風土記は62国2島のものが編さんされたが、現存するのは、肥前、豊後、常陸、播磨、出雲のわずか五つだけだ。

 さらに、世界最大級の高麗絵画「楊柳観音像」も、ガラスケースなしで直接鑑賞できる。国史跡「東名(ひがしみょう)遺跡」の縄文時代に作られた編みかご、国の特別史跡・吉野ケ里遺跡関連では国重文「巴型銅器鋳型(ともえがたいがた)」、有田焼はヨーロッパの窯がこぞって写した柿右衛門や古伊万里、さらには売茶翁と親交があった奇想の絵師・伊藤若冲の掛け軸まで、すべてが見どころと言っていい。

 時をたどるというコンセプトから「通史」の色合いが濃いが、単に時代ごとに並べたわけではない。時の流れを縦軸とすれば、横軸として「二つの海」をキーワードに掲げているからだ。玄界灘と有明海。二つの海は、大陸から文化を受け入れ、同時に佐賀から全国、そして世界へと発信するルートでもあった。

 その流通は1万5千年前までさかのぼる。伊万里市の腰岳から産出した黒曜石は良質な石器の原料として、はるか海を越えて北は朝鮮半島へ、南は琉球列島へと運ばれた。

 人が行き交うクロスロード、その地理的な特徴が、佐賀のアイデンティティーを培ってきたと言っていい。佐賀人を評して「進取の気性」という言葉がよく使われるが、これは歴史的な土壌と切り離せないだろう。

 今回は展示手法もユニークだ。通常は黒子に徹する学芸員たちが、自ら顔をさらして語りかけてくる。各コーナーの冒頭、展示を担当した学芸員がポイントを説明する簡単な動画が流れる。図録も1人1ページずつ、単なる説明にとどまらず、どのような思いで展示品を選び構成したかをつづった。

 同じ佐賀の地に暮らす一員として研究成果を真摯(しんし)に伝えようとする姿勢は共感できるし、何より分かりやすい。企画展の展示アドバイザーを務めた東京大学総合研究博物館特任教授の洪恒夫氏も「一番分かりやすいのは人の語り。学芸員は博物館の生命線であり、『語り』を展示のアイテムに入れたかった」と狙いを語っていた。

 ただ、分かりやすさを優先して展示点数を絞り込んだ結果、もうひとつ物足りないのも確かだ。1万年以上の長い時間を、わずか100点余りでたどろうというのだから、相当な無理もある。

 展示は日本最初の洋画家・百武兼行で締めくくられるが、これはもう一つの展覧会への導入でもある。併設する美術館の関連企画「海がいざなう物語」である。ここでは、ペンによる細密画で世界的に活躍している画家池田学さんの代表作「誕生」と、そこから派生した作品群を見ることができる。

 二つの海が育んできた佐賀の歴史と文化をたどる旅。会期は11月3日まで。佐賀に暮らす、すべての人に足を運んでもらいたい。(古賀史生)

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