元日産自動車会長カルロス・ゴーン被告の役員報酬過少記載事件で、共犯として金融商品取引法違反の罪に問われた元代表取締役グレゴリー・ケリー被告の公判が先月中旬から東京地裁で始まり、元秘書室長の証人尋問が続いている。元室長は検察と司法取引をして不起訴を約束してもらうのを条件に捜査・公判に全面的に協力している。

 10年前、当時の厚生労働省局長を文書偽造で逮捕・起訴した大阪地検特捜部による証拠改ざんが発覚。検察の信頼は地に落ち、特捜解体論も噴き出した。とりわけ自白を強く迫るなど強引な取り調べに批判が高まり、検察は主要な事件で取り調べの録音・録画(可視化)を義務付けられた。

 そうした中、可視化によって供述が得にくくなり、新たな捜査手法が必要として検察は日弁連などを説き伏せ、日本版司法取引を実現させた。2018年に導入され、適用2例目で、その年11月に世界的なビジネスマンのゴーン被告を逮捕、再び脚光を浴びた。ゴーン被告は昨年、保釈中に海外逃亡したが、検察の「復活」を印象づけた。

 その後も、参院選を巡る買収で元法相の河井克行被告を逮捕・起訴するなど大型事件を手掛けている。だが一方で「強権的な捜査」に批判は絶えず、危うさもつきまとう。改ざん事件後の信頼回復への道は険しい。根気強く捜査・公判改革を重ねていく必要がある。

 林真琴検事総長は先日、全国の高検や地検のトップらを集めた検察長官会同で、職員一人一人が検察の使命、役割を再認識するよう訓示した。検察は行政機関の一つだが、他の省庁と異なり、幅広い捜査権と起訴・不起訴を決める公訴権を併せ持つ。捜査が政界に及ぶこともあり「準司法機関」と位置付けられる。

 強大な権限ゆえに独善に陥りやすいとされ、それが時に厚労省文書偽造事件のような冤罪(えんざい)も生む。検察が取り調べ可視化と引き換えに手にした司法取引は、容疑者や被告が他人の犯罪捜査に協力する見返りに不起訴にしてもらったり、求刑を軽くしてもらったりするが、虚偽の供述で無実の人が巻き込まれる恐れがあるとの懸念は根強い。

 無罪を訴えるケリー被告の公判で元室長は、ゴーン被告の指示でケリー被告らと報酬を有価証券報告書に記載しない方法を検討したと検察側の主張に沿う証言をしている。ただ裁判所は証言の信用性を慎重に見極める姿勢を示しており、司法取引が定着するかどうかの試金石になるだろう。

 一方、昨年の参院選を巡り河井被告と妻の参院議員、案里被告が地元議員ら100人に票の取りまとめを依頼し、計2900万円余りを渡したとされる公選法違反事件の公判では、現金受領と集票目的との認識を認める被買収側の証言が相次いでいる。しかし被買収側は誰も起訴されておらず、処罰の公平性に疑問が投げ掛けられている。

 弁護側は、検察が有利な証言を得るため裏取引したと追及する構えだ。参考人聴取で現金受領を認めるよう執拗(しつよう)に迫られたという証言もある。

 検察は刑事訴訟法で定められた独自捜査事件や裁判員裁判対象事件以外にも取り調べの可視化を拡大しつつあるが、十分とは言えない。全件、かつ任意段階や参考人の調べにまで広げ、取り調べへの弁護人立ち会いなどにも取り組むべきだ。【共同通信・堤秀司】

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