主要企業で来春卒業予定の大学生らへの採用内定が正式に解禁された。順調に「売り手市場」で推移していた就職活動は新型コロナウイルス感染拡大で状況が一変。このままでは正社員採用を逃す学生が増えかねない。

 バブル崩壊後の就職難で非正規雇用が多くなった「就職氷河期」の再来は何としても避けたい。今なら十分間に合うはずだ。官民が早急に知恵と力を結集すべき局面だ。

 今春卒業した大学生の就職率は98%と過去最高だった。だが、リクルートワークス研究所は8月上旬、来春卒の大学生らに対する企業の求人数は68万3千人で、前年比15・1%減とする推計結果を発表。コロナ禍で企業が採用に慎重となり、リーマン・ショック以来の厳しい状況になった。

 リクルートキャリアによると、来春卒の大学生の内定率は、東京五輪・パラリンピック効果もあり4月1日時点で過去最高の31・3%だった。ところが4、5月の緊急事態宣言で就活が停滞し、6月1日時点で56・9%と前年同期比13・4ポイント低下した。9月1日時点でも前年同期比8・7ポイント減の85・0%にとどまる。

 一方で厚生労働省は今春卒業した大学生や高校生では採用内定取り消しが、8月末時点で昨年春卒の5倍に当たる174人だったと発表。希望に燃え社会に飛び出そうとする若者たちの門出にコロナの暗い影が差す。これを何とかして拭い去る必要があるのは、過去の教訓があるからだ。

 1990年代半ばからの約10年間に大学などを卒業した30代半ばから40代半ばの人たちは、バブル崩壊で企業が新卒採用を大幅に絞り込む就職氷河期に直面した。新卒一括採用、終身雇用の慣行が残る日本では、卒業時に正社員のレールから外れれば容易に乗れなくなるという問題点がある。

 非正規雇用は低賃金、不安定で未婚・晩婚化が進み、少子化に拍車を掛ける。厚生年金に入れなければ、老後は低年金により生活保護受給が増える。貧困化は消費低迷につながり、社会保障制度の財政基盤を揺るがす。政府が約3年間で計650億円超の予算を確保して氷河期世代対策に乗り出したのも、これらに危機感を強めたからだ。

 産業界と国はバブル崩壊後の危機乗り切りを優先し中長期的な思慮を欠いてしまった。氷河期世代はその結果である採用抑制策の犠牲になった側面が大きい。この過ちを繰り返してはいけない。

 何より、少子高齢化で今後の日本の経済社会はマンパワー不足がますます深刻になる。にもかかわらず、若者を社会の入り口でつまずかせてしまえば、産業政策としても損失は大きい。

 焦点は来春の入社時に、正社員での就職率をいかに高くできるかだ。次に、そこで不本意に非正規雇用になった若者の再チャレンジを支援することが重要だ。

 企業には、新卒一括にこだわらず、既卒者の中途採用を通年で行うなどの努力も、今以上に期待したい。国、自治体はそれを政策として支援していくべきだ。

 過去の教訓に学ぶなら、企業はコロナ後の事業再生を期して、今は苦しくとも当初の採用予定枠を何とか維持するのが望ましい。ANAホールディングスや日本航空、旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)は新卒採用を中止したが、これが広がることは避けたい。【共同通信・古口健二】

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