台風被害で瓦がはがれた屋根にシートをかけて応急措置をした唐津市歴史民俗資料館=唐津市海岸通

 唐津市海岸通にある佐賀県指定重要文化財の明治の洋館「旧三菱合資会社唐津支店本館」(市歴史民俗資料館)が、9月の台風9、10号で屋根や窓ガラスに損傷を受けた。アニメの聖地にもなり県外からの注目度が上がっている建物だが、老朽化に伴う劣化が進んでいる。現地保存か移築かの議論について唐津市の方針決定はされておらず、本格的な改修には至っていない。市幹部が早期に方向性を決めると議会で答弁して2年近くがたつ。さらなる劣化を防ぐためには早期の判断が求められる。

 旧三菱合資会社唐津支店本館は明治41(1908)年、石炭の輸出を手掛けた同社の唐津出張所として、埋め立て地に建てられた。県内では数少ない明治期の洋風な木造2階建てで、海に面して広いベランダがある。かつて石炭の積み出しで栄えた唐津港の歴史を伝える施設だ。傷みが激しくなってきたこともあり、2003年に休館、その後は年数回の特別公開を実施している。

 2018年、佐賀を舞台にした人気アニメ「ゾンビランドサガ」に登場し、ファンの「聖地」の一つとして、地元だけでなく広く知られるようになった。休館中も多くのファンが訪れ、唐津への誘客につながっている。新たな価値が加わったといえよう。

 雨漏りなど被害があるたびに修理をしているが劣化は止まらない。今回は屋根のスレート瓦が大きくはがれて野地板も損傷したほか、銅板もめくれ、窓ガラス4枚が割れた。屋根はシートで覆っているが、あくまで応急措置である。

 改修を巡っては、官民一体で港を核にした活性化に取り組む「唐津みなとまちづくり懇話会」が05年8月、唐津港の将来像と今後の方向性をまとめた地域素案で、緑地内に移築しシンボル的な建築物・景観資源としての活用を盛り込んだ。市側も課題の整理、調整に取り組み、15年3月議会で「指定文化財としての価値を損なわない方法」で東港の合同庁舎跡地への移築を検討する考えを示していた。

 ところが、その後の専門家調査で、基礎のレンガ壁や人工石の「テラゾー」仕上げと呼ばれる玄関ホールと廊下は、文化財価値を損なわずに移築するのは技術的に困難という見解が出されて足踏み状態になった。現地保存より数倍の費用を要することも課題である。

 市議会の議論や専門家の調査結果、加えて「聖地」としての潜在力からは現地保存の道が有力に映る。ただ、現地保存にしても億単位の費用が必要であり、市庁舎建設や市民会館などの建て替えといったハード整備を抱える中で、その捻出は容易ではない。それでも、文化財としてきちんと残していくためには時間的猶予がないのも事実だ。市内外の市民が保存のありようを注視している。(辻村圭介)

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