菅義偉首相は、看板政策の「デジタル庁」新設へ年末に基本方針をまとめ、来年の通常国会に必要な法案を提出する考えを表明した。経済政策をはじめ前政権を継承した首相は、同庁創設で早期に独自色を打ち出したい意向とみられる。だが権限や組織の在り方、目標など新庁には課題が多い。霞が関の縄張り争いを乗り越え、国民の利益第一を徹底できるかどうかが問われる。

 菅首相は関係閣僚会議の初会合で「この大きな改革に全力で協力してもらいたい」と全閣僚の取り組みを要請。デジタル分野の基本方針を示すIT基本法の改正に加え、政府内だけでなく民間からも新庁に人材を集める考えを明らかにした。

 菅首相が前のめりなのは、発足間もない新政権に対する国民の目を意識してのことだろう。それにも増して、新型コロナウイルス禍に伴い実施された一律10万円給付や雇用調整助成金のオンライン申請における混乱など、政府のデジタル対応の体たらくへ危機感を強めたからに違いあるまい。

 その点を踏まえて菅首相が「行政の縦割り打破」の具体策として新庁を持ち出したことは理解できる。しかしその前に必要なのは、これまでのデジタル政策がなぜ効果を上げられなかったのかの検証である。

 政府がIT基本戦略を決定したのは2000年11月。そこでは「電子政府の実現」や「5年以内に世界最先端のIT国家となる」目標が掲げられた。その後、e―Japan戦略などと衣替えしながら取り組みは継続。近年は各省庁計で九千億~1兆円規模の予算が毎年度投じられてきた。

 これだけの時間と税金を使いながら大して役立たないデジタル化しかできなかった原因の分析と反省がなければ、新庁をつくっても失敗を繰り返すだけだろう。デジタル化の「失われた20年」を無駄にすべきではない。

 その上で新庁を創設するとしても課題は山積みである。まず、どのような権限を与え、組織とするかだ。

 これまでも政府にはIT戦略の司令塔を担い各省庁間の調整に当たる「内閣情報通信政策監」が置かれていたが、ほとんど機能してこなかったのが実態である。

 新庁の有効化には各省庁を従わせる強い権限が不可欠となる。それと合わせて省庁に分散・重複するデジタル関連の人員や予算を新庁へ整理・集約することを求めたい。

 それがなければ新庁一元化による縦割り打破の効果は見込めないし、無駄排除の行政改革に逆行するからだ。デジタル庁新設で霞が関が「焼け太り」することは、あってはならない。

 各省庁をはじめ地方自治体ごとの各種システムやデータ管理の仕方、ソフトウエアなどをどこまで統一していくかも難題である。見込まれる莫大ばくだいなコストを軽視して議論を進めるべきではない。

 菅首相は約20%にとどまるマイナンバーカードの普及をデジタル化の目標に挙げた。しかし高齢者をはじめ同制度に対する国民の不信や不安を置き去りにした、性急な対応は避けてもらいたい。

 今後、カードに健康保険証の機能が一体化されたり、銀行口座とナンバーがひも付けされたりすればプライバシーへの不安は一層高まる。個人情報保護とセキュリティーの確立は新庁の重要な課題だ。(共同通信・高橋潤)

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