人がまばらな会場に向けて各国のリーダーがスクリーン上で演説する異例の国連総会は、国連創設75年を祝う高揚感に乏しい。

 それはコロナ禍でオンライン総会となったためだけではない。大国間対立に埋もれて国連がさまざまな問題解決に役立っていないという無力感を反映したものだ。

 国連は第2次大戦を教訓に創設された。創設75年に当たり、国連総会は多国間主義の再生をうたう記念宣言を採択した。

 グテレス事務総長は演説で、新型コロナウイルスという危機を前にしても、自国の利益追求に終始する米国の姿勢に強い不満を表明した。その通りと言うしかない。

 トランプ米大統領は総会演説で、コロナ禍について「中国に責任を取らせる」と断言した。世界で約100万人が亡くなった責任はすべて中国にあるとでも言うのだろうか。一方の中国は習近平国家主席が演説で米国を念頭に「大国らしく振る舞え」と諭したが、中国の初期対応は明らかに失敗があったのだから、トップがその責任を認めなくては国際社会は不満を募らすだけだ。

 感染症を封じ込め、ワクチンを早期に開発し、世界に広く届けるために、米中は協力してほしい。世界保健機関(WHO)など国連を中心とした国際機関は感染症対策で主役を担わなければならない。WHOは中国寄りと批判されたが、中立的な対応に努めて権威を高めるべきだろう。

 国連は気候変動問題でも指導力を発揮すべきだ。習主席は総会演説で、2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする脱炭素社会を目指すと宣言した。

 世界一の排出大国の大胆な目標設定を機に、国連は世界の取り組みを加速させる機運を盛り上げるべきだろう。そうなれば、温暖化防止のパリ協定から離脱した米国も無視できないはずだ。

 核兵器の拡散や軍縮の停滞も憂慮されている。核兵器の保有や使用を全面禁止する核兵器禁止条約の批准国は45カ国となり、さらに5カ国・地域が批准すれば発効する。5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が来年開かれる。だが核保有国は核兵器禁止条約に反対し、むしろ米中ロの3カ国は軍拡に逆戻りとも言える状況だ。

 国連は非核保有国の願望を結集して核保有国に強力な圧力をかける場となってほしい。そうした圧力があって、新たに核保有を狙う国を諦めさせる説得が力を持つ。

 平和と安定、人権、開発。この3本柱を掲げて地球全体を包む国際組織は国連だけだ。75年間で紛争解決、平和維持、貧困層の縮小、途上国開発、疾病対策、人権意識の拡大、教育の普及、自由貿易の促進など多くを達成してきた。「持続可能な開発目標」(SDGs)も国連が打ち出した。

 だが、世界の実勢を反映しない安全保障理事会の構成が象徴するように、国連は改革すべき点が多く、世界が今の国連に失望感を抱いている。

 失望の原因が大国のエゴにあるのは間違いない。しかし、他の国が傍観していては、国連は機能不全に陥るだけだ。そうなれば、コロナ禍のような危機に人類は苦しむ一方である。

 日本は多国間主義を国益として復興と繁栄を実現した。欧州など同じ思いの国々と協力し、国連再生に立ち上がるべきだ。(共同通信・杉田弘毅)

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