日本は少子高齢化が進み、30年後には現役世代が高齢者の暮らしをほぼ一対一で支える「肩車型社会」を迎える。今から国民の負担増を伴う社会保障制度改革を進めなければ、将来世代は重い負担に耐えられない。

 しかし菅義偉首相は、新型コロナウイルス流行で落ち込む経済の再生が「今何をするかの全てだ」とし、年末の状況次第で社会保障改革の先送りも示唆する。首相には将来への危機感がどこまであるのだろうか。コロナ危機克服は当然重要だが、子や孫を救うため中長期の改革も着実に進めなければならない。

 首相は「国の基本は自助、共助、公助」と言う。野党は過度な自己責任論と批判するが、世界最速で進む少子高齢化への対処には、好むと好まざるとにかかわらず自助も共助も公助も欠かせない。

 社会保障で言えば、自助は目減りする年金を補う高齢者の就労、年金受給先延ばし、老後資金の貯蓄など。共助は医療、年金、介護の公的保険制度。公助は障害者福祉、生活保護、さらに社会保障を支える税財源確保などだ。これらを総動員しなければ社会保障制度は持続が難しい。その意味で首相は的を射ている。

 問題は、安倍晋三前首相が掲げた「全世代型社会保障」の継承以外では「不妊治療への保険適用」「待機児童問題を終わらせる」などしか具体的政策が示されないことだ。痛みを伴う改革に取り組む覚悟が見えない。

 それでは全世代型社会保障とは何か。2022年から25年に団塊世代が75歳以上となり医療費などが急増する。それに備え社会保障制度を財政的に安定化させる「お金の手当て」が主な狙いだ。

 昨秋の消費税10%への増税が改革の土台だ。個別政策では、支え手を増やすため希望者が70歳まで働けるよう企業に努力義務を課す。現在60~70歳の間で選べる公的年金の受給開始年齢を75歳にまで広げ、パートら非正規で働く人の厚生年金加入を拡大した。残る課題は、一定所得がある75歳以上の医療費窓口負担の1割から2割への引き上げだ。負担が倍増する高齢者から反発必至の「本丸」の改革と言える。

 恩恵も痛みも広く分かち合うのが全世代型社会保障だ。20年後に社会保障給付費は1・5倍に増える。改革を進めるには、全世代から広く薄く集め税収が安定的な消費税のさらなる増税の議論が今後避けて通れまい。首相が「10年は引き上げない」としたことで痛みが先送りされ、将来世代への「つけ回し」が一層膨らまないか懸念される。

 25年の先には「40年問題」が待つ。高齢者人口の増加は25年をピークに緩やかとなり、社会保障費の急増も一段落する予想だ。以降は現役世代の人口が急減し、団塊ジュニア世代が65歳以上になる40年ごろ減少ペースが加速。社会経済を維持するマンパワー不足が次の主要課題に浮上するだろう。人口構成の高齢化で就業者5人に1人は医療・福祉の仕事に取られる社会が訪れるという。

 このままで日本の産業は成り立つのか。お金の手当てにめどを付け、次の局面へ準備するのが菅政権の使命ではないか。単なる「安倍政治の継承」では困る。安倍政権は痛みを伴う本格的改革をやり残した。足らざるを補い、誤りは正すのが真の継承だ。まずは「75歳以上2割負担」を実行できるかが試金石となる。(古口健二)

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