新型コロナウイルス感染症対策では各国の協調が求められる一方、米国と中国は対立を深め、自国優先主義がはびこる。対立と分断で不安定さを増す国際情勢の中で日本はどういう役割を果たしていくのか。外交・安全保障政策は極めて難しい課題に直面している。

 菅義偉首相は外交・安保分野でも前政権の「継承」を掲げる。約7年8カ月の間、安倍晋三前首相を支え、外交・安保政策の決定に関与したとも強調する。しかし、直接交渉に当たったわけではなく、目指す外交の構想を深く語ったこともない。手腕は未知数だ。

 激しく変動する状況に政策の継続だけで対処できるだろうか。国際社会に向き合う骨太の構想を示すよう求めたい。

 安倍前首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を掲げ、各国首脳との個人的な信頼関係を基に官邸主導の外交を進めてきた。確かにトランプ米大統領らと良好な関係を築き、「戦後外交の総決算」として北方領土返還や日本人拉致問題に取り組んだ。だが、必ずしも成果を上げたとは言い難い。

 菅氏は就任記者会見で「機能する日米同盟を基軸とした外交を展開する」と表明。同時に「中国、ロシアを含む近隣諸国と安定的な関係を築きたい」と述べた。安倍前首相と同様に戦後外交の総決算を目指すとし、特に「拉致問題の解決に全力を傾ける」と強調した。

 ただ、個人的な信頼関係を引き継ぐのは難しい。茂木敏充外相の再任は継続性を優先するとともに、官邸独走ではなく外務省も重視し、政府一体で外交を進めるという意向の表れだろう。事務レベルで各国との対話を積み上げていくのが菅流外交にならざるを得まい。

 「継承」とは言っても、全てが前政権のままではないはずだ。この機に仕切り直しが必要な課題もある。日米同盟が基軸だとしても、安倍前首相は国際秩序を乱すトランプ氏の言動をいさめることはなかった。巨額の米国製防衛装備品の購入を迫られるなど「対米従属」の側面も強かった。

 11月の米大統領選の結果にかかわらず、米国の対中強硬姿勢は変わらないとみられている。一方の中国は軍備拡張を続け、沖縄・尖閣諸島周辺や南シナ海などでの活動を活発化している。

 日本としては地域の緊張緩和に最優先に取り組むべきだ。米中の橋渡し役を果たせるのか。菅氏がまず問われるのは、米国との信頼関係の再構築と、自民党内に反対論も出ている習近平中国国家主席の国賓としての来日への対応になる。

 北朝鮮の拉致問題は、菅氏が長年取り組んできた課題だ。菅氏はかつて「圧力」に重点を置いていた。金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談を実現できるのか。粘り強い交渉が求められる。

 安全保障政策では、前政権が宿題として残した新たなミサイル抑止策が課題となる。安倍前首相が目指した「敵基地攻撃能力」の保有の方向性もそのまま継承するのか。専守防衛の事実上の転換で、地域の軍拡競争を招きかねない課題だ。慎重な検討を求めたい。

 沖縄の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設はこれまで菅氏が中心となって進めてきた。反対の声にも耳を傾けず、埋め立て土砂投入に踏み切ったのも菅氏の主導だ。新政権が地方重視を自負するのであれば、県民の声に真摯(しんし)に向き合うべきだ。(共同通信・川上高志)

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