菅義偉首相は、これまで官房長官として新型コロナウイルス対策では社会経済活動を止めない姿勢を一貫して取った。「第2波」がピークを越し、ワクチン開発が進めば、経済重視の方向をより鮮明にするだろう。

 しかし今冬、症状の似た季節性インフルエンザと同時流行になれば、様相の異なる「第3波」が現実化し医療機関が逼迫(ひっぱく)しかねない。長引けば、来夏の東京五輪・パラリンピック開催に影響必至だ。せいては事をし損じる。新政権はまず第3波阻止に全力を尽くし、その上で経済を前に進める基本方針で臨むべきだ。

 首相はコロナ対策を「最優先課題」に位置付けた。感染防止と経済再生の両立を重ねてアピールするが、重点は「雇用を守り事業を継続させる」ことを中心とする経済政策に置く印象が強い。

 コロナ禍での雇い止めや休業で生活費、家賃支払いにも窮する個人、事業者をまず救うとの主張は妥当だ。しかし専門家も折に触れ懸念を示したのは、感染を止めるブレーキと経済のアクセルを同時に踏むような政府の判断が目立ったからだ。

 安倍前政権は4月7日に緊急事態宣言を発令したが、官房長官だった菅氏は直前まで「宣言する状況にない。国民生活への重大な影響に鑑み、慎重な判断が必要」と消極的だった。5月25日に宣言が全面解除された後、東京などで感染が再燃しても「再び発出する状況にない」と経済を止めない方針を変えなかった。

 菅氏は政府の観光支援事業「Go To トラベル」の旗振り役だ。「感染リスクを抑えながら経済活動を引き上げないと地方は極めて厳しい」と自身が8月から7月22日への事業開始前倒しを主導。盆休みの帰省についても閣内に慎重意見がある中、「一律自粛は求めない」と人の移動を止めない姿勢で通した。

 そして政府は、大規模イベントの人数制限の大幅緩和に続き、専門家の慎重論を抑えて10月からGoToの対象に東京を追加する方針だ。確かに8月上旬に約1600人にもなった1日当たり新規感染者数は9月に入ると半分以下だ。だが東京都の感染者数は、7月中旬と同水準の200人前後の日が最近も続く。地方に再び感染を広げるリスクが否めない。新政権は国民へきちんと必要性を説明する責任がある。

 菅首相が「来年前半までに全国民に行き渡るよう確保を目指す」と強調するワクチンは実用化時期が見通せず、安全性や有効性に不確定要素が多い。加えて、首相は都道府県知事の権限を強める新型コロナ特別措置法改正にはなお消極姿勢で、感染防止に向ける「熱量」は経済に比べ低い。

 100年前のスペイン風邪は流行終息まで約3年を要した。ある程度の長期戦になることは避けられず、焦りは禁物だ。

 同時に、首相自身が述べたように「ポストコロナを見据えた改革」の推進も重要なテーマだ。コロナ禍で日本の問題点があぶり出された。国、自治体、保健所の連携や、定額給付金の手続きを困難にした行政のデジタル化の遅れ。相変わらずの東京一極集中などだ。

 コロナ禍を経験した日本は、職場でも生活の場でも以前とは違う「新たな社会像」が求められる。菅首相は、政府の未来投資会議で始まった議論を後押しし、未知の感染症にも強い国造りの設計図を早急に描くべきだ。(共同通信・古口健二)

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