さだまさしさん原作の映画「眉山(びざん)」で、末期がんの母親が自分の遺体を大学に「献体」する。若い医師が育つ陰に、死してなお、後世に役立ちたいという崇高な精神を持つ人がいることを忘れてはならない。ただ、本人の遺志に加え、遺族が同意しないと献体されない。それほど人の死は厳粛である◆だが、この人たちはどうだったのだろう。国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園(けいふうえん)」(熊本県合志市)の入所者のうち、400人近くの遺体が解剖されていたことが分かった◆らい菌が原因のハンセン病は、完治する病気なのに忌み嫌われた。日本では長く隔離政策がとられ、差別と偏見を生んだ。遺体の解剖にはどんな経緯があったのだろう◆人は自分と違う人間を警戒し、攻撃してしまう傾向がある。それが世界で分断を生み出す原因の一つになっている気がする。米国でも黒人への人種差別がやむことはない。全米オープンテニスで優勝した大坂なおみ選手は人種差別被害者の氏名を記したマスクをつけ、「あなたは私のメッセージをどう理解するか」と投げかけた◆差別や偏見をなくすためには学ぶことや、理解しようとする努力が必要だ。人は間違うこともあるが、間違いに気づくこともできる。生まれながらの差別者はいないはず。ハンセン病史にまた一つ加わった悲しい事実が、そう訴える。(義)

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