政府は、新型コロナウイルスのワクチンを来年前半までに全国民に提供できるよう確保し、全員に自己負担無料で接種することを目指している。それにより感染を収束させ、来夏の東京五輪・パラリンピック開催につなげたい考えだ。

 しかし英製薬大手アストラゼネカは、開発中のワクチンで副作用の疑われる深刻な症状が出たとして治験を一時中断。欧米製薬9社は安全性を最優先するとの共同声明を発表した。期待先行は危険だ。先進国が独占し途上国に回らなくなる事態も避けたい。危機の時こそ冷静な対応が必要だ。

 通常なら数年かかるワクチンの実用化に各国がしのぎを削る。それは、100年前のスペイン風邪などの例からみても、感染するかワクチン接種によって集団中の一定割合の人が免疫を獲得しない限り、感染症の流行は終わらないからだ。

 政府はアストラゼネカと米製薬大手ファイザーからそれぞれワクチン1億2千万回分の供給を受けることで基本合意。国内でも、2020年度補正予算で計600億円を計上し、国立感染症研究所などによる開発を後押しする。だが実用化後も全国民に行き渡る数量の生産には時間がかかる。

 そのため政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、高齢者や持病のある人、医療従事者に優先して接種するべきだと提言した。死者や重症者を減らし医療崩壊を防ぐため重症化リスクが高い人や、診療に当たる医師、看護師らを優先する判断は妥当だ。対象に加えるか否かなお検討を続ける高齢者施設の従事者、妊婦らについても早期に結論を出してほしい。

 政府は、ワクチン接種後に副作用で健康被害が起きた場合に企業が払う損害賠償金や訴訟費用を肩代わりする法改正も検討している。海外メーカーから損失補償を求められたためだ。09年の新型インフルエンザで前例はあるが、ワクチンを早急に大量確保するためとはいえ、税金を使う異例の優遇措置には慎重で公正な運用が求められる。

 一方、世界では自国第一主義に走る先進国によるワクチンの「囲い込み」も問題化している。来年1月までに少なくとも3億回分の確保を目指すトランプ米政権に引っ張られて欧州各国が自国向けの獲得に力を入れ始め、日本も追随する形になった。このままでは価格が高騰し、途上国が置き去りになりかねない。

 中国が開発中のワクチンを外交ツールにし、途上国への影響力拡大を図る動きもある。世界保健機関(WHO)は、各国でワクチン開発に共同出資し、参加国は人口の少なくとも20%分を確保できるようにする国際的枠組みへの参加を呼び掛けている。国の経済力の違いで市民の生命に軽重の差がついてはいけない。日本も参加表明しているこの枠組みを広げたい。

 技術的な懸念も強い。日本が米英2社から確保するワクチンは「核酸ワクチン」など実用化の実績がまだない新技術を使う。政府分科会も、重い副作用や感染予防効果が得られない可能性を認め「理想的なワクチンが開発される保証はない」と過大な期待を戒める。

 政府は実用化に当たっては安全性を最優先してほしい。その上で、ワクチンだけには頼れない以上、並行して治療法の確立を進め、「3密回避」などによる感染拡大防止も愚直に続けるべきだ。(共同通信・古口健二)

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