今、私たちはコロナ禍の時代を生きている。価値観の大きな転換は、戦前戦後になぞらえられることも多い。さまざまな文化活動が抑制される中、「文化は不要不急か」という議論もよく聞かれ、「ウィズ・コロナ」時代に向けて、アーティストの模索が続く。

 そのような折、県芸術文化協会が、提言をまとめた『佐賀の芸術文化-未来への展望2020』を発表した。コロナ対応を主テーマにしたわけではないが、これからの佐賀の文化・芸術の進むべき道はどこにあるのか、示唆に富む。佐賀新聞社の中尾清一郎社長が特別寄稿を、九州大学大学院や佐賀大学の研究者ら5人が提言を寄せている。

 総論を担当したエッセイストの筒井ガンコ堂さんは、戦後の昭和20年代に着目した。1945(昭和20)年11月に「不知火」が創刊されたのをはじめ、次々と同人制の文芸誌が誕生。文学に限らず、美術界、演劇や音楽など芸能部門も活発な動きを見せた。さらに、49年には新制佐賀大学が発足し、県内の文化活動に大きな役割を果たすようになる。現在も続く県展も、この頃に始まった。

 いわば、“豊穣の10年”とも呼べるこの時期を、筒井さんは「文化愛好者の裾野が広がり、地方での文化の在り方として理想的とも言える状態を造り上げていた」と評価する。戦争による創作活動への抑圧が解かれ、市民レベルで創作活動が広がった時代であり、現代と比較しながら「佐賀の一枚岩的な文化状況は一場の夢であったのであろうか」と問いかける。

 今回の芸文協の提言では、文学、美術、陶芸、書、音楽など各分野の代表者も、それぞれの現状をと今後の在り方を語っている。

 そこに通底しているのは、本格的な人口減少社会の到来に伴う、活動停滞への危機感である。だが、次の世代にいかに文化活動に関心を持ってもらうか、入り口論で立ち止まっているケースも多いように見える。

 この点で、佐賀美術協会の理事長で画家の北島治樹氏が提言した、「作品から先のこと」をキーワードにした具体策に注目したい。

 県内で活動するアーティストにとって、発表の機会は限られているのが現状だ。作家たちのアトリエや工房には、多くの作品が眠っている。それらの作品に光を当て、どこでも身近に美術作品にふれられる環境をつくれないか、という構想である。町や集落ごとに、廃校や古民家を利用したギャラリーなどを設けるアイデアである。

 音楽分野では県音楽協会の吉原敏郎会長が、お寺の本堂や小さなカフェ、公民館、病院など身近な場所で意欲的に演奏している若手の姿を挙げて「いろんな場所でいろんな音楽が流れている街を目指したい」と展望している。

 佐賀県には400年にわたる有田焼の伝統があり、佐賀大学には全国でも珍しい「芸術で地域を拓き、芸術で世界を拓く」人材を育成する芸術地域デザイン学部が設けられた。国立大学としては、東京芸術大学に続く2例目の美術館まで備えている。

 伝統と革新が地域に根付き、新たな芽吹きを予感させる。さまざまな角度から示された今回の提言を、創作に携わる人だけでなく広く県民が共有し、未来を考えるきっかけとしたい。(古賀史生)

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