新型コロナウイルスの感染者や家族、関係者への誹謗中傷が佐賀県内でも絶えない。感染した人を特定しようとする動きも散見され、非難を恐れて検査をしない人が増えれば、感染がさらに広がる可能性がある。目に見えないウイルスを完全に防ぐことは困難で、誰でも患者になり得る。言動を省みながら、県の人権教育・啓発基本方針にも対策を盛り込み、偏見や差別をなくしていきたい。

 県内で7月20日から続いた新型コロナウイルス感染の「第2波」では、8月29日までに10歳未満~90代の男女190人が陽性と診断された。SNS(会員制交流サイト)では感染者を特定しようとする動きが見られ、写真が掲載されたケースもあった。職員の感染が確認された唐津市内の高齢者福祉施設に対しては「おたくか」と責め立てるような電話があった。

 3月から5月にかけ、再陽性を含めて延べ47人が感染した「第1波」でも、嫌がらせや中傷が確認されている。県によると「コロナの家」と言われたり、自宅や勤務先の会社の周辺をうろつかれ、従業員が中傷されたりした事例があった。誤解や臆測から、ある感染者は「自殺した」といううわさが流れたが、県の担当者と連絡が取れており、デマと判明している。

 県は感染者本人や、濃厚接触をしたと判断した場合の家族らの性別や年代、職種などを公表している。県民に注意を喚起し、市町が対策を講じる上で公益性のある最低限の情報と考えている。

 国の基準でウイルス検査が必要ない周囲の人たちにも県は、通称「念のため検査」を実施してきた。感染経路を特定し、その後の感染の広がりを一つずつ封じ込めていくことを目的にしている。感染した人への心ない言動は当事者を傷つけるだけでなく、こうした対策を難しくしていく。誹謗中傷を恐れて検査を受けることをためらわせ、結果として感染の拡大を招きかねない側面がある。

 経済再生担当相は7月末の新型コロナウイルス感染症対策分科会後の会見で、感染者への差別や偏見、プライバシーの侵害を防ぐため、有識者による作業部会を設置して対策を検討する方針を明らかにした。学校や職場での差別や偏見の実態を調べるほか、自治体などの有効な取り組みを集めて発信することを検討している。

 佐賀県には人権教育や啓発を総合的に推進する指針として「人権教育・啓発基本方針」があるが、2018年の改訂以降に発生した新型コロナへの対応は明記されていない。県は8月の人権教育・啓発推進懇話会の会合で「時機を逸しないように付加することを考えたい」と説明した。HIV感染者やハンセン病患者、難病患者、肝炎患者と同様に、現状と課題を分析し、具体的な施策の方向性を盛り込んでいってほしい。

 岐阜県は「感染症対策基本条例」を7月に施行した。患者や医療従事者らへの不当な差別、誹謗中傷の禁止を掲げており、こうした取り組みも参考にしていきたい。

 「感染したくない、感染させたくないという不安や恐れが、感染者を排除の対象にしてしまう行為となって表れている」。部落解放・人権政策確立要求佐賀県実行委員会は会報で、こう指摘した。

 「自分もコロナにかかるかもしれない」。そんな想像力と当事者意識を持って、感染者をいたわり、周りの人たちを励ます地域でありたい。(井上武)

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